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同値変換

1節では同じシステムに対し状態変数の取り方を変えることで異なった状態方程式が得られることを見た。しかし、もともと同じシステムであるから状態変数の取り方を変えてもシステム自体の入出力関係に変化はない(伝達関数行列は変化しない)。このようにシステムの入出力関係が一致し、状態空間の空間次数も同じであるシステムを同値なシステムという。

本節では2つ(以上)の同値なシステム間の関係を、システムの代表的な性質について説明する。なお、ここで議論される同値変換は非線形制御理論においても特に重要なテーマであり、多様体の理論とも密接に関連する。

また、入出力関係が同じであっても状態空間の次数が異なるシステム表現は同値なシステムとは呼ばれない。この場合、一方を他方の低次元化と呼ぶが、これもシステムの解析という立場からは重要である。

まず初めに与えられたシステムの状態方程式に対し,異なった状態変数を割り当てる手法(同値変換)について説明する.

次の線形システムを考える.

$\displaystyle \dot{x}(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle Ax(t) + Bu(t)$ (8.1)
$\displaystyle y(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle Cx(t)$ (8.2)

このシステムに対し,新たに状態変数 $\bar{x}(t) = [\bar{x}_1(t) \quad \bar{x}_2(t)\quad \cdots \quad \bar{x}_n(t)]^T$を次式により導入する.
\begin{displaymath}
\bar{x}(t) = Tx(t)
\end{displaymath} (8.3)

ただし,$T$は正則な$n$次正方行列とする.(8.3)より $x = T^{-1}\bar{x}$であるから,これを(8.1),(8.2)式に代入すると
$\displaystyle \dot{\bar{x}}(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle TAT^{-1}\bar{x}(t) + TBu(t)$ (8.4)
$\displaystyle y(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle CT^{-1}\bar{x}(t)$ (8.5)

となる.したがって(8.4)及び(8.5)式において
\begin{displaymath}
\bar{A} = TAT^{-1}, \quad \bar{B} = TB, \quad \bar{C} = CT^{-1}
\end{displaymath} (8.6)

と置くと,(8.4),(8.5)式は(8.1),(8.2)式と 同じ形になる.このことから与えられたシステムの状態変数を適当な正則行列を使って相似変換すれば同じシステムに対する別の表現(同値なシステム)が得られることがわかる。

逆に,2つの異なったシステム$(A,B,C)$ $(\bar{A},\bar{B},\bar{C})$に対して, ある正則行列が存在し,(8.6)式を満足するとき,これらのシステム $(A,B,C),
(\bar{A},\bar{B},\bar{C})$は同値であるという.また,与えられたシステムを同値な システムに変形することを同値変換と呼ぶ.

(8.1),(8.2)及び(8.4),(8.5)式からこれらのシステムは入力$u(t)$と出力$y(t)$は同じであり,状態変数の取り方だけが異なるシステムであることがわかる.

同値なシステムに対し,次の定理が知られている.  

定理 可制御性及び可観測性は,システムの同値変換に対し保存される.  
証明 簡単のため可制御性についてのみ証明するが、可観測性についても同様にして証明される.

システム$(A,B,C)$ $(\bar{A},\bar{B},\bar{C})$が同値なシステムであると仮定する。 それぞれの可制御性行列を$M_C,\bar{M}_C$とし、変換行列を$T$とすると(8.6)式より

\begin{eqnarray*}
\bar{M}_C &=& \left[ \begin{array}{cccc}
\bar{B} & \bar{A}\bar...
...& TAB & \cdots & TA^{n-1}B
\end{array}\right] \\
&=& T\cdot M_C
\end{eqnarray*}

$T$は正則行列なので最大ランク($=n$)を持つことから

\begin{displaymath}
{\rm rank}\bar{M}_C = {\rm rank}M_C
\end{displaymath}

よって可制御性について同値であることが示された。(証明終)  

さらに両システムの固有値を調べてみると

\begin{eqnarray*}
\det(sI-\bar{A}) &=& \det(T^{-1}(sI-A)T) = \det(T^{-1})\det(sI-A)\det(T) \\
&=& \det(I)\det(sI-A) = \det(sI-A)
\end{eqnarray*}

となり,特性多項式は不変である.すなわちシステムの極は不変であるから安定性も変わらない.

また,伝達関数についても

\begin{eqnarray*}
\bar{C}(sI-\bar{A})^{-1}\bar{B} &=& CT^{-1}(sI-TAT^{-1})^{-1}T...
...{-1}TB \\
&=& CT^{-1}T(sI-A)^{-1}T^{-1}TB \\
&=& C(sI-A)^{-1}B
\end{eqnarray*}

となり,不変である.

以上により、同値変換を行ってもシステムに関する重要な性質は殆ど全て保存されることがわかる.このことから与えられたシステムの係数行列が複雑な場合には適当な同値変換により係数を単純化することが考えられる.また、与えられたシステムを同値変換により解析に適した標準形に変換させることも考えられる。




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endo 平成16年6月30日