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結論

今回の実験では、逐次学習法を用いたサーチアクセスの理想的な想起状態 の実現をめざした。

学習させた4個のパターンを全て想起することの出来る想起状態は実現できた。 しかしその想起状態には周期があり、想起する順番は学習させた順番であった。 そこで次に学習の順番を、 4個のパターンの並び順でありえる24通り全てで実験を行なった結果、 80%の高い確率で次に想起するのパターンは、 学習順で次に覚えさせたパターンであった。 このことから逐次学習法では、パターン順番も学習する のではないかと考えられる。 今回は初期値を特定のパターンとして与えなかったが、 与えた場合も学習順に想起するかは今後の検討課題である。 また4個のパターンの想起は全ての学習順で成功したわけではなかった。 そこには全て思い出される順番も存在した。 それからパターンからパターンへの覚えやすさがあるのではないかと考えられる。 学習順を一定の順でなくランダムの順でも実験したが、結果の想起状態は やはり特定の周期が現れた。

ここまでの学習順を変化させる実験には、 実際の脳にも見られるシナプスからの信号を抑制する シナプス前抑制を加えてなかった。 それにより自己想起の力が強くなって次のパターンに移りにくくなり、ある程度連続で 想起してしまうのではないか、またその結果が周期となって現れるのではないか と考えた。

以上の結果から次にシナプス前抑制を加えて想起の状態を調べることとした。 始めにどの程度の抑制値が適しているかを調べるために0から1の範囲で0.01間隔の 値でそれぞれの想起状態を調べてみた。 結果は想起数,想起パターンの標準偏差,想起時間の3つの パラメータで比較してみた。 想起数,想起パターンの標準偏差は明かに抑制値が1の場合つまり抑制を 加えない時の方が良い想起状態となった。 また想起時間の面からは抑制値が1のときが最も良い想起状態とは言えないが、 それほど悪くはない結果となった。

抑制値が0から1の範囲では良い想起状態が得られなかった。 そこで次に抑制値とは言えなくなるが、 抑制値の範囲を1以上にも拡大して実験を行なった。 その結果も良い想起状態は得られず、抑制値がある値より大きくなると 最初に想起したパターンから全く変化しなくなってしまった。 これは抑制値を大きくし過ぎたため抑制でなくなり、 自己想起が強くなってすぐに自己想起が始まってしまったと考えられる。

実際の脳でのシナプス前抑制は興奮性シナプスのみに現れる現象である。 しかし今までは興奮性,抑制性問わず両方の状態のシナプスに加えていた。 そこで抑制を加えるのを興奮性シナプスのみにして実験を行なった。 その結果は4個のパターン全てを思い出すまでの想起時間は、興奮性シナプスのみに 抑制を加えた方が全体的に見れば良い結果となった。 しかし、想起数,標準偏差は両方の状態に抑制を加えた方が全体的に良い結果 となった。 これから、今までの実験では興奮性,抑制性を問わず両方の状態に シナプス前抑制を加えていたが、 良い想起状態をつくり出すには間違いではなかったということが実証された。

最後にサーチアクセスで必要となる、特定のパターンで抑制を止め自己想起状態へ 移行させることが成功するか試してみた。 結果は新たな周期が出来たり、異なったパターンを想起したりと 狙ったパターンで自己想起をさせることを成功することは出来なかった。 しかし、この実験で自己想起に移行させる時には、相関学習法を用いて いた時と同じように抑制値を1としていた。 また実験結果より抑制値を1.5程度にすると自己想起を続けるという結果を得ていた。 そこで自己想起に移行する時に抑制値を1でなく1.5程度にすればうまく自己想起に 移行できるのではないかと考え、実験を行なってみた。 結果は抑制値を1.5とすれば自己想起状態にうまく移行させることが出来た。 これから逐次学習法で自己想起をさせるには、抑制を加えるのを止めるだけでなく、 抑制値を1より大きな値として加え、他のニューロンからの信号を 増加させ相互結合の項を強くしなければならないことが分かった。

以上の逐次学習法で学習した周期的動的想起状態を、 シナプス前抑制で制御を試みる研究からは、 抑制を加えない方が良い想起状態が実現できるという結果になった。 今後はカオスニューロンのパラーメータを変化させたり、学習回数を変化させて 新たな想起状態を作ってみるなど今後の課題はたくさんある。

謝辞

最後に本研究を進めるに当たり、一年間を通して多大な御指導を賜わりました出口利憲先生に深く感謝するとともに、同研究室において助言をいただいた専攻科の酒井哲平氏、今村豊治氏氏、また、同研究室においてともに学んだ加藤寛氏、田口裕章氏、豊吉隆一郎氏、古田彰吾氏に厚く御礼を申し上げます。



Toshinori DEGUCHI
2004年 3月22日 月曜日 09時50分50秒 JST