序章

物事を記憶したり、他者とのコミュニケーションを図ったりするなど、脳は情報処理において非 常に高い性能を発揮することができている。このような脳機能の動作原理を利用しようとし て生まれたのが、ニューラルネットワークである。

生物の神経系の構造が基礎になっているニューラルネットワークは現在までに複数のモデルが存 在しているが、いずれのモデルも目的は、並列に動作する複数の簡単な計算素子を密に相互結合 することにより計算効率を向上させることである。このようなニューラルネットワークは、見か け上の類似性に関わらず経験から学習を行ったり、前例から新しいものに分化したりと驚くほど たくさんの脳の特徴を示す。現在では、ニューラルネットワークの性能は文字認識や画像圧縮な どの、様々な分野で実証されている。特に、音声・画像認識の分野では、人間以上の性能を示し た例も確認されている。本研究では、ニューラルネットワークの持つ特性の中でも、特定の物を 検索する記憶検索についての研究を行う。

ニューラルネットワークに、実際の脳が持っているとされるカオス的特性を取り入れたものに、 カオスニューラルネットワークと呼ばれるものが存在する。本研究の主目的でもある記憶検索 は、このカオスニューラルネットワークの特性である動的想起と呼ばれる現象を利用している。

現在まで、本研究室では記憶検索に関する様々な研究を行い成果を出してきた。しかしそれらの 研究では、動的想起を起こしやすい特別なパターンを利用したものであったり、パターンをある 程度意図的に操作したものだった。そこで本研究では、完全にランダムなパターンを利用した場 合の記憶検索の成功率を調べるための研究を行うこととする。 特に、学習させるパターン数も多くの場合4つであったため、本研究では10、20、30と、学習パターン の数を増やしていった場合の記憶検索の成功率も確かめることとする。



Deguchi Lab. 2017年3月6日