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序論

「飛行機雲ができると翌日は雨」などの天気に関する言い伝えである「観天望気」は、その地点の気象要素によって起こる現象と人々の記憶や経験を対応させてできた、学習的な気象予測であるといえる。それに対して現在行われている「数値予報」は、気象現象が全て物理法則によるものであるということを利用し、物理法則に則った論理立てを行い予測する、理論的な気象予測であるといえる。前者はその地点の気象要素だけで予測が可能であるが、信頼性が著しく低く、後者は観天望気と比べると信頼性が高いが、地球上の全ての大気の情報を取得する必要がある。[1]

気象予報は「観天望気」から、1820年にドイツの物理学者Brandesがヨーロッパ各地の観測データを地図に記入した地上天気図を作成したことをきっかけに、「天気図」による天気の表現が普及した。1854年にはパリ天文台長LeVerrierが天気図のパターンを分析して異なる時間での天気図で低気圧の位置を追跡することによって嵐が起こりうる場所の予測を行った。

1922年、イギリスの物理学者、Richardsonはヨーロッパの実際の観測データを元に将来の気象データを予測することを試みた。1947年の電子計算機の誕生以降、より高速な計算が可能になったことから「数値予報」による気象予測が主流となった。[1][2]

そして現代では、気象予測は本格的な数値予報へと変遷し、大規模かつ高性能なスーパーコンピュータで全国各地の気象予測を行っており、より信頼性の高い気象予測ができるように研究が進められている。

本研究では、現在主流となっている物理法則に則った大規模な気象予測ではなく、各地域で観測した気象データのみで天気のパターンを見出すことによって小規模かつ身近な気象予測を行うことを目標として研究を行う。

「観天望気」による気象予測は学習的な気象予測であるため、気象予測には学習機構が必要となる。本研究ではこの学習機構に人工ニューラルネットワークの1つである自己組織化マップを使用して気象の予測を行う。自己組織化マップは知覚、思考、記憶などの高レベルの脳の機能を司る大脳皮質に多く見られる神経細胞の自己組織化をモデル化したもので、学習によって大規模な多次元データを低い次元に落として処理を単純化するベクトル量子化を暗示的に行い、入力したデータのパターン分類を行う事ができる競合学習型のニューラルネットワークである。[3]

「観天望気」などの言い伝えや経験は、「同じ天気パターンに属する日は、翌日も同じ天気パターンに属する可能性が高い」という知識から成り立っているといえる。そのため、自己組織化マップによるパターン分類を利用して天気のパターン分類を行い、予測したい日の前日の天気パターンが同じ過去の日付を検索し、その日付の翌日の天気を予測天気とすることで気象予測を行う。

本研究では複数日の気象予測を行うことで予測誤差を評価し、本研究の予測手法による気象予測が有効であるかどうかを検証した。



Deguchi Lab. 2011年3月4日