H.M.の臨床例

脳内の海馬と呼ばれる部位は, 記憶形成において重要な役割を担っていると考えられている。 そして, その機能の解明に大きな貢献をした人物としてHenry Molaison(以下「H.M.」と称する)が挙げられる。 H.M.はてんかん治療のため海馬とその近傍の摘出手術を受けた後, 術前3年間の記憶に対する部分的な逆向性健忘症と, 術後の記憶の定着ができなくなる順向性健忘症を発症した。 しかし, 術前3年以上前の記憶は思い出すことが可能であり, 短期記憶も問題がない等, 記憶能力が全て失われていたわけではなかった。[11] これらの症例から, 海馬は非永続的な記憶を保持すると共に, 記憶の形成に大きな影響を与えていると推測されている。

Deguchi Lab. 2017年3月6日