BestHtml ロボコン’96体験記

来場者数学内用は学内のみ、学外用は学外からのみカウントアップします。 Since Nov. 22th, 1996.


地区大会、全国大会を内側から見て

まえがき
 NHKロボットコンテストの地区大会が10月に沼津高専で、全国大会が11月に両国国技館で行われました。顧問として初めての参加にもかかわらず、地区大会では準優勝、全国大会ではベスト4という思いもかけない経験をさせていただき、がんばってくれた学生諸君に感謝しています。これまでテレビを通してしか見ることができなかったロボコンを内側から見ることができ、新鮮な感動を覚えました。ロボコン’96を私のフィルターを通して紹介したいと思います。今年の課題やルールなどについては他の記事で紹介されていますので、既にご存じであるという前提で話を進めていきたいと思います。
 インターネットのホームページに記事を掲載する場合には出版物と同じ慎重さを要求されますので、私の誤解によるところがあればメールなりでご指摘いただければただちに修正いたします。また、今後も写真などができあがり次第、リンクさせていく予定です。

テーマ
 今年のテーマは輪投げであり、輪は若干の制限があるものの自由に製作して良いという、これまでとはかなり違った設定でした。この点では全国大会での審査委員長の総評のように、これまでにない様々なタイプのロボットが製作され、近年にない盛り上がりであったというのもうなずけるものでした。競技そのものは自由度が増した分だけ判定が難しく、レフェリーへの負担は地区大会の決勝などに見られるように大変なものがありましたが、それを補ってあまりある成果が得られたのではないかと思います。より高度な製作技術より、より創造的な発想を求めるという点で、これからのロボコンの方向を新たに示したテーマであったと思います。
 ただ、輪投げの相手のパイロンが適切であったかどうかは意見が分かれるところではないでしょうか。高さ2mの大パイロンはロボットの製作費と比較してもそれほど安価ではなく、どこの高専も入手に苦労されたのではないでしょうか。後の処分にも困りますので、ロボット研究会ではもう一つのグループが製作したボール紙のパイロンを借りていました。あとでも述べますが、ロボット製作以外のところで経費がかからない工夫をする必要があるような気がします。

校内審査まで
 各高専で出場できるロボットは2台であるので、学内予選を実施している高専もあると聞いていますが、本校では今年は学内選考会議で書類審査をすることになりました。ロボコンの顧問としての役割とロボット研究会の部活動としての顧問の役割ではその意味合いが若干違うかもしれませんが、私自身としては初めての参加であるのに対して、学生たちは既にこれまでに何回も参加しているということから、発案から製作に至るまですべて学生に任せようと思っていましたので、私のアイデアについては全く話しませんでした。私の知る限り、校内審査に提案されたロボットに概念的に類似のタイプのものが、地区あるいは全国でみることができた点で、平均的なレベルにはあるものの、残念ながらそれ以上のものでもなかったようです。

地区大会前夜まで
 ロボコンの顧問が大変であることを先生方からお聞きしており、私もそれなりに覚悟を決めていましたが、幸いにも学生諸君が自主的に、夏休みも返上してがんばってくれたおかげで、顧問としては製作場所を確保するための交渉、進行具合の確認、合宿、差し入れ、NHKの取材、諸手続きなどをするだけで、特に負担を感じることはありませんでした。絶えず学生たちが熱中しやすい環境にしてやることを考えていました。これに対して、もう一つの製作グループの方は2年生ばかりではじめての参加ということもあり、大変な負担が顧問の仲教授にかかっていたようです。
 研究会が製作したロボットは手錠型のロボットであり、手錠の部分に若干の工夫が必要であるものの、高度な技術を要することはないので、比較的早く完成したのではないかと思います。これまでの先生方のアドバイスからむしろ、つまらないマシントラブルを避け、百パーセントの力を出すことを念頭に置いて、マシンチェックのほうに力を入れました。
 地区大会は沼津高専で行われましたが、ロボットの搬送の費用が非常に高いという印象を受けました。全国大会では片道の費用だけでしたが、ロボットの製作費に匹敵するような搬送費は理解に苦しむところでした。ロボットを小さくするか、分解できるような工夫をこれからはする必要があると痛感しました。来年のテーマが大きいロボットの方が勝敗には有利となるようなことがないことを祈るのみです。

地区大会
 東海北陸の地区大会には20台のロボットが参加しましたが、マシントラブルで力を発揮できないまま敗退するチームがかなりあり、大会自身も当初は盛り上がらないものでした。コート上で二つのロボットがひっくり返ったまま、延長、再試合、じゃんけんで2回戦進出という場面もありました。敗退していったロボットの中には、公平に見て研究会のものよりもアイデアおよび機能の点で優れたロボットもありましたが、完成度という点では岐阜のロボットが優れていたのではないでしょうか。
 研究会のロボットは順調に動いているのに対して、仲教授が顧問されているロボットはハプニングの連続であり、私であればとっくにあきらめていたものを、じつにねばり強く学生を指導され、あきらめさせずに対処され、ベスト4まで導かれたのは驚嘆に値します。
 異常な速さでパイロンをゲットする沼津高専のマイコン制御によるロボット、華麗な舞を見せた福井高専のドラゴンフライ、ホバークラフトを利用した豊田高専の浮上ロボットなどの登場、岐阜と金沢高専のハットトリックで勝ち抜いてきたもの同士の一秒を争うスリリングな勝負などで大会は一気に盛り上がっていきました。決勝戦はすべてハットトリックで勝ちあがってきた沼津高専と岐阜高専の戦いになりました。沼津高専のハットトリック阻止の後、岐阜高専のハットトリック完成(?)で勝利の歓声に湧く中に「ちょっとお待ち下さい」というアナウンサーの一言。輪の位置の解釈により岐阜のハットトリックは完成しておらず、再試合にするとのこと。作戦を変えれば絶対に勝てる自信があり、再試合にのぞみましたが、マシントラブルで敗れてしまいました。再試合ではなく最初の試合が中断した時点から始めてくれていればという気持ちがあったものの、学生たちは気持ちよくこの結果を受け止めてくれていました。沼津高専とは全国大会の控え室でも隣同士になり、会話もはずみ、とても爽やかな印象が残りました。

全国大会
 全国大会は11月17日両国国技館において24台のロボットが参加して行われました。全国大会には出場枠のため出場できませんでしたが、地区で優れた機能を示したロボットを、今年からはデモンストレーションとして国技館で披露するという配慮により6台が選ばれていました。東海北陸地区では2台選ばれ、この地区のレベルの高さを示しています。
 両国国技館の東の支度部屋に控え室が設けられ、横綱が座る場所や桟敷席などをつぶさに見ることができ貴重な体験ができました。
 各地区大会の優勝校はシードされていましたが、アーム型のロボットはテーマの意図しているところもあったのか、1台のみの優勝であり、全体でも3台の出場になりました。輪の飛び方としては、落とす、舞う、投げる、当てるといった常識の範囲内でありましたが、北九州高専のアームが飛んだのには驚きました。
 輪の形状が各校とも最も苦心したところであり、大島商船の柔らかい布が実におもしろい形状で巻き付き、しかもかなり手強い点でリハーサルの段階で注目を浴びていましたが、柔らかいものを制御する技術が評価されてテクノボーイ大賞を射止めたのは順当な評価であったと思います。デモンストレーションだけの参加になりましたが、ひもを巻き付けるロボット(明石高専)が披露され会場を湧かせておりましたが、このロボットが私にとっては最も印象深く心に残りました。明石高専は地区大会でも優勝と準優勝を独占しており、もしも、2台とも全国に出場していたらと関係者の方々は本当に残念に感じられているのではないでしょうか。来年からはNHKの特別推薦で正規に出場できるようにしてもらうのも一つの方法だと思うのですが。
 東海地区から参加した出場したロボットについて紹介したいと思います。沼津高専のロボットはマイコン制御であり、工場などで動いているロボットの域に達しており、本体の機能として技術的には群を抜いていたと思います。マシントラブルでその力を全国に披露できませんでしたが、その強さ、すごさを知っている私たちも、同じ東海地区の代表として残念でなりませんでした。豊田高専のホバークラフトも全国では見られないものであり、その技術力からも何かの賞をとってもおかしくないと思っていましたが、一回戦で大接戦の末、釧路高専に敗れてしまいました。もっと評価されてもいいのではないかと感じました。福井高専のドラゴンフライは華麗な舞で全国でも会場を湧かしていました。私の一番最初に思いついたものとかなり近く、大変に気に入っておりまして、全国でも必ず賞をとると思っていましたが、輪が入らないということで選ばれなかったのでしょうか。リハーサルを含めて何度もその舞を見せていただき、印象の強いロボットでした。全国では上位に入らなかったものの、この三校の技術力は全国でもトップレベルだと思います。
 本校のロボットは一回戦からの出場でしたが、スピードと作戦、そして選手の冷静な判断のもと接戦の連続をハットトリックで勝ち進みましたが、優勝した徳山高専と準決勝で対戦し、大パイロンを先に取り、これを守る作戦にでたのでしたが、残念ながらベスト4で敗退しました。マシンも選手もその実力を最大限に発揮したという実感があり、満足のいく結果だったと思います。
 実は、本番2時間前にマシンの最終チェックをしたときに、一部が動作しなくなり、全員が青ざめました。それまで全く手出しをしなかった私もこのときだけはテスターを持ちました。幸いにも断線箇所を発見でき事なきをえましたが、一回戦にして力をだせずに敗退するのかと冷や汗のでる思いでした。地区大会の決勝戦の教訓からマシンチェックを最後までやって良かったと思います。

あとがき
 はじめてロボコンに参加して貴重な体験をする事ができ感謝しています。ロボコンの顧問は大変だという話をよく聞きます。私の場合には幸いにもこれまでに蓄積されたものがあり、激励だけを心がけておればよく、精神的にはきわめて楽であり、学生たちとも楽しくつきあうことができました。得るものは非常に多く、貴重な経験になり、宣伝効果も大きく感じました。この楽しさ、喜びを私だけで独り占めするのはよくないと思いますので、ロボコンに興味のある先生には是非顧問をお引き受け願いたいというのが私のこの拙文の本音です。
 最後になりましたが、今年の成果は、実習工場、学生課、電気工学科などの教職員の協力がなければ得られなかったと思います。ここに深く感謝の意を表して筆をおきたいと思います。

電気のホームページ 稲葉研のメニュー