高分子電気絶縁材料の撥水性の画像解析に関する研究

06E21 高橋和良

1.はじめに シリコーンゴムは優れた電気的特性に加えて、高い表面撥水性を有しており、屋外用がいしとして広く用いられつつある。その初期表面劣化過程の一指標として、材料表面の撥水性低下を観測することは非常に有用である。本研究では従来行なわれている接触角の測定とSTRI法を基にした、画像解析による撥水性の診断および撥水レベル評価を目指して研究を進めた。

2.実験方法 接触角の測定は、水平に置いたシリコーンゴム試料の上に注射器で水滴を形成させ、CCDカメラにて拡大し、接続されたモニタ画面より直接分度器で測定した。撥水性の診断は、まず試料表面に対して鉛直方向約10[cm]からスプレーによって、表面張力の明らかな液体を噴霧し、試料表面に水滴を形成する。その後試料面を水平に戻し、その撥水の様子を試料表面に対して鉛直方向よりCCDカメラで撮影し画像を取り込む。保存された画像データをNIHImageにより画像解析し、水滴面積の大きさ分布頻度および水滴の真円度についての計測を行う。

3.実験結果および考察 試料(RW,HW,HD)の蒸留水水浸劣化過程と、室温空気中での乾燥回復過程について、接触角の変化を測定した。測定結果より水浸過程ではすべての試料で接触角は低下し、逆に乾燥過程ではすべての試料で接触角は回復した。接触角の変化の原因は、水浸過程では表面近くの低分子量油分(LMW)が溶出し、水が吸収されたため、試料の表面エネルギーが上がることにより接触角が低下した。乾燥過程では吸水された水分が蒸発し、その中に溶出していたLMWが試料表面を覆うことにより、試料の表面エネルギーが下がり、接触角が回復したものと考えられる。また、界面活性剤を使用し水滴形成用液体の表面張力を低下させた場合の、接触角の液滴表面張力依存性についても測定を行った。その結果を図1に示す。図1より、液体の表面張力が下がると接触角も低下することがわかる。界面活性剤(低表面エネルギー物質)の濃度が高い時ほど、接触角に急激な低下があった。
 
STRI法による撥水性の診断では、水浸過程におけるRWの診断を行った。撥水画像の変化の一例を図2に示す。水浸劣化が進むほど小さな水滴が減少し、大きな水滴の個数が増加する傾向が見うけられた。また、水浸劣化が進むにつれ、水滴の真円度が低下していくことが確かめられた。(図3)

4.まとめ 接触角の測定に対して、測定方法に工夫を加え、測定のばらつきを少なくする手順を決定した。画像解析による撥水性の診断では、画像の取り込み方法から画像の解析手法まで、一連の計測手順がほぼ確立できた。撥水レベル分けに必要な指標の決定と、その各レベルに対する定量化については、試料に傾斜を与えたり、表面張力の異なる液滴で撥水性を評価したり、更には水滴形成後の撥水性の時間的変化を画像計測することなどにより、撥水レベルを用いた自動劣化診断が行えるようになると考えられる。


図1 HW上の接触角の液滴の表面張力依存性


(a)0日目(劣化前)


(b)15日目(蒸留水水浸50℃)
図2 RWの水浸劣化による撥水性の変化


図3 RWの水浸劣化による撥水水滴の真円度の変化
     噴霧液体:蒸留水(72.8[mN/m])