特別寄稿
英語教育とJABEE
宮城高専校長 四ツ柳隆夫国専協会長、JABEE基準試行委員
1.JABEEについて
先ず、表記のテーマの原点を確認しておきたい。国際化の時代を迎えて、技術者の活躍の舞台は全世界にまたがったものとなってきた。このため、各国とも大学等の行う技術者教育の質を保証し、輩出される技術者の資格を国際的に相互承認する必要性が生じてきた。日本技術者教育認定機構(Japanese
Accreditation Board for Engineering Education)は、このような目的で設立された。その略称名であるJABEEという言葉が、技術者教育に携わるものの間に広がり、日常語になった感がある。
JABEEの当面の目標は、国内の教育機関の認定(Accreditation)を実施して技術者教育の発展的向上を図ると共に、その実績をふまえて、米国、英国、カナダ、オーストラリア等で構成されるワシントン・アコードと呼ばれる国際的な相互承認協定に加盟することにある。
2.JABEE基準と認定:Accreditationについて
この認定方法は、技術者となる学生個人を認定するのではなく教育機関を認定し、その機関が修了を認定した技術者に国家資格(修習技術者;技術士の1次試験を免除される)を付与する方式を採っている。従って、教育機関は、学生の身につけた能力、"Outcomes"、を精査し、この資格を認定する義務を負うことになる。
このJABEE基準1 学習・教育目標(1)自立した技術者に必要な学習・教育目標の中に、(f)日本語による論理的な記述力、口頭発表力、討議などのコミュニケーション能力及び国際的に通用するコミュニケーション基礎能力がある。国際的に活躍する技術者のコミュニケーション能力には、当然のこととして国際語である英語の基礎的な能力が不可欠である。
また、同(3)学習・教育目標が社会の要求や学生の要望を考慮して決定されていること、への対応の項の中に、国際的な活動ができる人材の育成に関する事項が含まれており、そのキャンパスの教育環境が国際的な資質を育むものとなっていることが求められている。この面でも英語教育はその基盤を担うものである。
JABEEには40を超えるチェック項目があるが、そのどれか一つにでも欠陥(Deficiency)ありと判定されると、その教育機関は認定されないルールになっている。従って、英語の能力と共に、英語教育自体も、他の項目と並んで絶対的な必要条件となっている。
3.英語教育とTOEICについて
最近の技術者に対するアンケートでも、英語によるコミュニケーション能力をもつことが望ましいとするものが80%にも達したのに対し、満足できる能力を持っていると回答したものは10%に過ぎないことが分かった。コミュニケーション能力の状況がここまで来ても、一向に有効な手が打てない我が国の語学教育環境には何か問題が潜んでいる。その根本的な問題を調べて、対策を立てなければならない。「日常的に英語が必要でない状態の中では無理だ」とか、色々なことがいわれているが、それを超えて解決する必要が生じている。特に、高専では!
さて、その一方で最近、70万部を超えるベストセラーになった英語の本のタイトルに「英語を勉強してはならない」というのがある。「普通の勉強のセンスで、何とかしようと取り組むこと自体が誤りだ」とする趣旨である。著者の国である韓国と日本における英語学習の難しさに対する共通的な悩みが取り上げられており、学習の方法論としての実践を伴った一家言がある。
また、英語の能力を表現する方法として、最近の話題の中にTOEICがあり、膨大な量の本が店頭に並んでいる。これに関しても、種々の意見がある。確かに、TOEICのテストは、英語能力のある一面に過ぎないことは、その通りであろう。
しかし、TOEICは、英語能力のある面の反映であり、国際的に共通な比較基盤を構成している点で、揺るがない指標価値をもっている。このようなわけで、JABEEの審査においても、あるレベルのTOEIC得点をもって能力の証明とすることが行われている。では、いかほどの点数が目標かと問われたとき、JABEEとしての規定化された数値基準はない。JABEEの基準の多くは、一般社会の要求に対する対応を求めている。TOEICの場合も、その時点での社会の平均的水準を目安とした判断がなされている。 JABEEは、決してTOEICだけが信頼できる能力指標をもっている、と考えているわけではない。実際の交渉ごとの場面でのコミュニケーションの能力の証明ができれば、それがベストである。JABEEの評価が、学生個々人の能力を対象とするものではなく、機関としての教育能力を、教育の"Outcomes"として問うていることは重要である。その際の"Outcomes"としての学生集団の能力を証明するという点では、多様な研修や共同研究などの場を通してのコミュ二ケーションの状況を、音声と共に録画した資料は、優れた実証力を持っている。
4.おわりに 高専で英語教育に携わる先生方は、英語教育の手法とコンピュータ関連の支援ソフトと機器類の進歩を考慮に入れて、「日常的に英語が必要でない状態の中では無理だ」といわれる壁をブレークスルーして頂きたい。そして、技術者を目指す若い学生たちに適する、学ぶ楽しみを感じながら実力をつけていく教育方法を創造して頂きたい。これを心からお願いし、その達成にエールを送りたい。
(COCET通信第7号 H15.1.9 より転載)