研究紹介

本研究室では, 機械工学における熱・流体工学を基礎に化学反応や電荷移動を伴う熱科学現象について,特にその分子レベルでのエネルギー授受現象を解明し, 機能性材料等の合成に応用することを目指す研究を実験および計算機シミュレーションによって行っています。

1.方形波パルス無声(誘電体バリア)放電・高周波(RF)交流グロー放電を用いた常温・大気圧下における非平衡プラズマの利用

 ここで,取り上げられている非平衡プラズマとは,中性分子が示すガス温度に比較して,電子が示す電子温度が極めて高い状態であるプラズマ(一定の条件を満たす電離気体)を指し,この状態下では通常では生じにくい化学反応を促進する等のことが可能となります。この状態を実現する方法の一つとしてとして,無声放電が挙げられ,特にこの方法は大気圧下でもこの状態を実現することが可能であるため,装置が簡単になるとともに大量のガス処理等を行うには非常に有効であるといえます。

無声放電とは,オゾナイザー放電とも呼ばれ,オゾン生成を行うための方法の一つになっています。これは放電路に誘電体(ガラス等)を介在させることで,アーク放電(火花放電)に移行することを避け,短時間で発生・消滅を繰り返すストリーマ形式の微小放電を高い頻度で,ランダムに発生されます。この放電を継続的に発生させるには,時間変化のある電圧を印加させる必要があり,通常商用交流(西日本では60Hzが用いられますが,本研究室では非平衡性を高める目的で,立ち上がり時間の極めて短い(250ns)方形波パルスを用いています。さらには、高周波交流(RF13.56MHz)を用いた実験も行っています。

応用例----

・方形波パルス無声放電を用いたオゾン生成の高効率化

オゾンは,環境問題,工業的利用(強力な酸化力による滅菌作用を利用した消毒等)の両面において注目されています。従って,オゾンは酸素にエネルギーを加えることで発生しますが,この時いかに少ないエネルギーで大量に発生させるか,重要な課題となります。そこで,方形波パルス無声放電による非平衡プラズマを利用することで,これを目指しています。

・.大気圧下非平衡放電プラズマを用いた有機シリコン源による シリコン酸化膜の化学的気相合成(CVD)

 半導体デバイス(LSI)内の層間絶縁膜には主にシリコン酸化膜(SiO2)が用いられています。この膜の性能として,耐絶縁性等の電気特性が優れていることはもちろんのこと,デバイスの高集積化伴う非常に細かい段差(凹凸)をうまく被覆できることが要求されます。これは,通常,シリコン源(SiH4等)と酸素による化学的気相合成 ( CVD : Chemical Vapor Deposition) によって行われますが,このシリコン源として有機シリコンである珪酸エチル(TEOS : Tetraethylorthosilicate [Si(OC2H5)4])を用いることで段差被覆性については向上することが知られています。しかし,その他の性能については,十分であるとは言えません。そこで,非平衡放電プラズマ中でのTEOSと酸素の化学反応を用いることで,この向上を目指しています。

・大気圧下高周波グロー放電プラズマを用いたメタノールからの ダイヤモンド薄膜の化学的気相合成    

 無声放電の電極系に,高周波(RF)交流電圧を印加することでグロー放電を発生させ,炭素源としてコンパクトで比較的安全なメタノールを用いることで,工業的に有用なダイヤモンド薄膜を合成します。


2. 低圧下における非平衡放電プラズマ,火炎による熱プラズマの利用

 一般的な工業プロセスに用いられる放電プラズマは,放電が起こりやすく,安定して持続するように減圧下(大気圧以下)で実現されます。そしてこれらは一般に高周波交流や直流が用いられます。(マイクロ波によってプラズマ状態を実現することもあります。)また,プラズマ状態は,気体温度を非常に高くすることでも実現が可能であり,熱プラズマと呼ばれますが,非平衡ではありません。

応用例ーダイヤモンド薄膜の化学的気相合成(CVD)

 ダイヤモンドは工業上,高硬度,高熱伝導率,高絶縁性,高透明度等の優れた性質を持ちます。このダイヤモンドの合成法としては高温高圧法が一般的ですが,薄膜状に合成することは困難とされています。しかし,薄膜状で提供できれば,高硬度の特徴を生かして,切削工具のコーティング等へ応用が可能であり,さらには高性能な半導体デバイスを製造するための材料としても応用が期待されます。そこで,低圧におけるCVD法によって良質なダイヤモンド薄膜の形成を目指しています。

>>本研究室で行っている具体的な方法<<

・直流放電プラズマを用いたダイヤモンド薄膜の化学的気相合成 (メタン(CH4)と水素(H2)の反応を利用)

・火炎プラズマを用いたダイヤモンド薄膜の化学的気相合成 (アセチレン(C2H2)と酸素(O2)の燃焼反応を利用(約3000℃))

                           ・・・溶接用トーチにて実験装置が簡単に構成可能・・・・

・熱フィラメント加熱によるダイヤモンド薄膜の化学的気相合成 (メタノール(CH3OH)の熱分解反応を利用

                           ・・・これはプラズマを用いていない)



さらに詳細は以下の印刷物をご覧下さい

I. 半導体デバイス層間絶縁膜用シリコン酸化膜の化学的気相合成(CVD)に関する研究

II. ダイヤモンド薄膜の化学的気相合成(CVD)に関する研究

III. オゾン(活性酸素種)の生成に関する研究

IV. プロセスプラズマの生成・構造および物質状態変化に関する研 究

V. エアロゾル粒子の壁面沈着挙動に関する研究


御興味のある方は、是非ご連絡下さい。


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