冨山房の文庫

冨山房というと「袖珍名著文庫が日本最初の文庫本である。」という説もあるように 文庫と縁が深い出版社である。(新刊書店でもある。)明治19年創業。

さて文庫らしきものとしてはそれ以前に、
普通学問答全書 全21篇
が明治27年から明治31年に発行された。文庫と名乗ってはいないが、大きさ(菊半截)とシリーズ化していることから見れば文庫といえなくもない。 もっとも文明開化のこの時期に西洋技術などの学問を解説する同様の叢書は他にもかなり出版されていたらしい。冨山房からもこの後 同様の最新問答全書が明治37年に4冊発行されている。

袖珍名著文庫は明治36年から発行された名実ともに文庫本と呼べるものである。大きさはほぼ現在の文庫本と同じで、クロス装の上製本と紙装の並製本とがある。内容は日本の古典文学である。 当初は100冊発行の予定だったが、大正元年までに50冊発行されて終了した。もっとも発行は大正末(おそらく震災くらい)まで続いた。かなり長期にわたって発行されたので、表紙に変化が見られる。

大正15年(昭和元年)に新たに袖珍名著文庫を発行する。これは言ってみれば上製本だけの袖珍名著文庫といえるだろう。内容は以前の袖珍名著文庫とほぼ同じである。昭和4年までに23冊発行された。

昭和14年から三六版の冨山房百科文庫が発行された。これは内外の文学書や学術書を集めた充実した文庫であった。 しかし戦局の進展に伴いごく一部を除いて絶版となり、日本性十論など小数(おそらく10冊程度)がA6版で発行が続けられた。

代わりに国策に追随した「国民百科文庫」を発刊したが、何冊程出版されたのかよく分からない。かなり小数ではないかと思われる。

冨山房百科文庫、国民百科文庫 ともに終戦と共に終刊した。 現在戦前とはまったく別の新書版の 冨山房百科文庫 が発行されている。大型書店でも備えてあるところは少ないので、注文した方が良いだろう。


その他の文庫と名が付くもの
史学会文庫 菊版 一冊だけ? 明治35年
世界哲学文庫 菊版 3冊 明治37年
女子自修文庫 菊版 5冊 明治37年
絵入世界童話新集 菊半截版 3冊 大正5年
世界文学物語 袖珍版 4冊 大正5年
新釈絵入模範家庭文庫 新菊版 23冊 大正4-昭和8年

参考図書
冨山房五十年(昭和11年10月15日発行)
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