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第1章 序論

人間のように柔軟な情報処理を行なう手法として、ニューラルネットワーク、ファジィ、遺伝的アルゴリズムなどと並んでカオスが注目されている。近年、生体におけるカオスが数多く見いだされ、カオスと生体の深いかかわり合いが示されるようになってきた。そして生体の脳の神経回路網で観測されるカオスは、脳における記憶や学習に重要な役割を果たしていると考えられている。 合原らは、ヤリイカの巨大軸索に周期刺激を与えた時にカオス応答を示すことを発見し、ニューロンのカオスを生み出す軌道不安定性は、全か無かの法則の不成立ゆえに成立することを示した。また従来のニューロンモデルに実際の神経細胞に見られる時空間加算、不応性、連続値出力を考慮することによってカオス的ダイナミクスを有するカオスニューロンモデルを提案している[1]。 また Freeman らは、ウサギの嗅覚系の生理実験データにもとづいてカオスの学習における役割を議論している。すなわち、既知の臭い刺激はそれに対応するリミットサイクルによってコートされるが、未知の臭い刺激に対しては ``I don't know" 状態を表すカオス応答を示し、さらにそのカオスを経て、学習により新しいリミットサイクルが形成されるというものである。彼らはカオスが記憶探索する媒体としてだけではなく、新しい感覚パターンを識別・学習するためにも使われていると考えている[2]。

また一方で、人間の連想記憶機能を模擬する試みも盛んに行なわれており、ホップフィールドネット、アソシアトロン、双方向連想メモリなど多くの連想記憶モデルが提案されている。従来の連想記憶モデルの多くは、学習時にパターンの相関行列にもとづいて結合荷重を学習し、想起時にはその結合荷重を利用して想起を行なうというものである。つまり、学習過程と想起過程とは全く分離されたものとなっている。この学習の方法は結合荷重を他のニューロンとの関係だけで決めるものであるし、必ず全てのニューロンの結合荷重を変化させなければならい。 しかし、実際の脳においての学習と想起は分離されたものではないと考える方が自然である。また、ネットワークに記憶させるパターンがあらかじめ全てわかっているとは限らない。そこで既知のパターンが入力として与えられるとそれを想起し、未知パターンが入力として与えられると新しいパターンとして学習するネットワークを構築することは工学的にも有用であると考えられる。

カオスニューラルネットワークに継続的にパターンを入力することにより、既知パターンが与えられた時にはそれを想起し、未知パターンに対しては学習することができる。そのモデルとして長名・服部・ 萩原らが提案した学習法がある[3]。その学習法は、ネットワーク内の全てのニューロンの内部状態の情報を集めて学習の判断を行ない、一度に学習を行なう広域的な学習法である。そこで本研究では、新たに個々のニューロンが単独で自分の内部状態から判断して学習を行なう局所的な学習法を提案する。また渡辺・合原・近藤らが提案した局所的な学習法もある[4]。その学習法の要素を用いてしきい値学習法を作成した。これらの学習法について比較・検討する。また、本研究で提案した学習法の性能評価を行ない、有効性を示す。



Deguchi Toshinori
Wed Jul 12 09:07:09 JST 2000