カオス(Chaos)を和訳すれば「混沌」「無秩序」といった意味になる。基本単位を別個に観察すれば、特定の力学的関係や法則にしっかり則っている、という点において、「ランダム」な状態とは区別される。カオスの一例としては、気流や水流の乱れ、神経の応答時間が示す波形などを挙げることができる。理工学から生物学にはじまり、社会学や経済学の分野にいたるまで、カオスの現象は見出される。
カオスは、一見して把握や予見が不可能であるように思われるが、それでも方程式に直すなどして理論的に究明することが可能であるという立場がある(「カオス理論」)。本研究ではカオスをカオス理論に従っているものとする。
カオスの特徴として、初期値の非常に小さな差が、将来の結果に多大な影響を生み出す事があげられる。 このようなカオス現象は、人工物、自然物を問わず非線形システムでは普通にみられるものである。
具体的なカオスの例として式(3.1)のような系を考える。
式(3.1)の入力と出力
の特性を表したものが
図3.1 であり、
これはロジステック写像と呼ばれる一次元カオスである。
この系に初期値を与えたときの振る舞いを図3.2、図3.3に示す。
図3.2 は
、図 3.3 は
と初期値をきめた。
このように初期値のわずかな違いが、その後の系の振舞いに大きな影響を与えることがわかる。 カオス状態ではわずかな誤差が拡大され、系の振舞いを大きく変えてしまうと言える。[7]
乱れのないカオス系では、写像と初期値が与えられれば先の値は予測できるため、先ほど述べた初期値鋭敏性はさほど問題ではないが、自然界のような常に乱れの存在する系においては、小さな乱れであれ鋭敏に反応するため予測ができなくなってしまう。この(カオス+小さな乱れ)の系が、本来は決定論的に定まるカオスを実質的に非決定論的存在にしてしまうのである。
以上のカオスの特徴をまとめるとつぎのようになる。