Abstract
The hydrophobicity of Nylon 6/6, ethylene
propylene diene monomer (EPDM) and silicone rubber insulator during
the aging by long immersion in saline water at different temperatures
and salinities and the recovery in air at room temperature was
investigated. The hydrophobicity was determined by measuring the
contact angle of a droplet of distilled water on the specimen.
The surface free energy and diffusion coefficient of saline water
of the samples were also evaluated.
キーワード:撥水性,接触角,表面エネルギー,塩水
( hydrophobicity, contact angle, surface free energy, saline water
)
1. はじめに
高分子電気絶縁材料の初期表面劣化過程の指標の一つとして多く用いられている撥水性について,試料を0℃から98℃の塩水(導電率 5.0
- 105 micro S/cm)に浸けることによる低下と,その室温空気中での回復過程について調査した。その結果を,試料中への塩水の吸水量や拡散係数,試料の表面エネルギーをふまえて検討した。
2. 試料及び実験方法
試料としては直径12mmのナイロン (Nylon
6/6) の丸棒を長さ20mmに切り出した物(約3g)[1,2]と,46kV級の高分子ゴムガイシの笠部分を32等分して切り出した物(約5g)[3,4]を用いた。試料の劣化は0,
25, 50, 75, 98℃の各温度で,空気中および導電率5, 103,
104, 105 micro S/cmの食塩水中に試料を所定の時間浸すことにより行った。この間の撥水性の変化を,約5mlの蒸留水(
2-3 micro S/cm)の接触角測定により評価した。接触角は試料を塩水中から取り出し,表面が乾燥した後,室温・空気中にて水平に保った状態で接眼レンズで測定した。
接触角の測定は,各温度と導電率でそれぞれ10点の測定データの平均として,各々独立した試料と塩水溶液を用いて2回ずつ行い,その再現性や信頼性を確認した。一部の接触角の測定に際しては水に加えてmethylene
iodide (MI)の液滴による接触角測定を行い,試料の表面自由エネルギーを評価した。[5-7]
また,試料の塩水浸による劣化後,室温・空気中での撥水性の回復過程を引き続き蒸留水の接触角測定により評価した。
劣化時と回復時それぞれの試料の吸水量の変化は,試料の重さ測定により観測した。また,この吸水や乾燥を拡散と考え,拡散係数をその初期過程の近似式[8]により評価した。これには,直径25.4mmのナイロン棒を厚さ1mmのディスク状に切り出した試料を用いた。
3. 実験結果及び検討
3.1 試料の吸水と拡散定数
ナイロン試料の初期重量からの,336時間の塩水浸劣化後の重量変化%と,その4,500時間の室温空気中での回復(乾燥)後の重量変化%を,それぞれFig.1とFig.2に示す。図中Airは,試料が初期に有していた水分の,各設定温度の空気中での乾燥による質量低下とその回復後の値を示している。336時間の塩水浸後のナイロンの吸水は劣化温度が高温になるほど大きく,水分の吸収は高温ほど急速に進むのが分かる。また,塩分濃度の上昇に対しては,105
micro S/cmの食塩水に対してはやや吸水量が低下する傾向がみられるものの,その吸水の量に導電率の差による大きな違いはみられない。吸水時と乾燥時を比べると,一旦高温で吸収された水分は室温で長時間放置してもなかなか完全に抜け出さないことが分かる。高温での吸水が全て室温で乾燥するのには約10,000時間が必要と予想される。[2]
吸水を試料中への水の拡散と考え,その拡散係数をより正確に評価するため,直径25.4mmのナイロン棒を厚さ1.00mmのディスク状に切り出して,23,
45, 75℃の各温度における蒸留水の吸水量の測定を行った。吸水時と乾燥時の結果を横軸√時間でそれぞれFig.3とFig.4に示す。飽和吸水量は温度によらずほぼ8%程度であることが分かる。
また,吸水時より乾燥時の方が√時間に対して直線から早くはずれ,完全な乾燥はやや時間を要するのが分かる。両図から拡散係数
Dを D=0.049/(t/l2)1/2の式により求めた結果をTable 1に示す。ここでDは拡散係数
[m2/s], (t/l2)1/2 は吸水量が飽和吸水量の2分の1になるまでの時間
t[s] を試料厚さ l[m]の2乗で割った値である。[8,9] この式は拡散初期の吸水量が吸水時間の√と比例関係にあるときに用いることができる。
576時間の浸水劣化に対して,EPDMとシリコーンゴムの場合も同様に,高温での浸水劣化ほど多くの吸水がより早く行われる傾向を示す。[3,4]
飽和吸水量はそれぞれの材料で異なり,98℃での値はナイロンが8%程度なのに対して,EPDMが3.8%程度[9],シリコーンゴムが1.2%程度[4]である。5,000時間シリコーンゴム試料を室温で吸水させたときの質量増加は0.9%であった。また,EPDMとシリコーンゴムの576時間の塩水浸による吸水は,塩分濃度の上昇により顕著に低下した。[3,4,9]
更に,低分子量物質( Low Molecular Weight material : LMW)などの塩水浸時の溶出のため,高温側での劣化時には塩水浸中にも試料の重さは低下しはじめた。この傾向は吸水量が少なくLMWの含有量が多いシリコーンゴムで特に顕著にみられた。[4]
3.2 接触角の変化
各試料の蒸留水の水滴の接触角は,塩水の水滴の接触角とほとんど変化はなく,一般的には吸水量が多いほどまた,その導電率が高いほど試料表面の水滴の接触角は低下した。ナイロンの,336時間の吸水劣化後と,その4,500時間の室温空気中での回復(乾燥)後の試料の接触角の値をそれぞれFig.5とFig.6に示す。ナイロンの接触角は溶液の導電率の上昇に対して急激に低下する。また,浸水劣化温度が高温になるほどその低下はより大きくなる傾向を示す。劣化中の接触角は浸水直後に急激に低下し,その低下は高導電率の溶液浸ほど顕著であった。回復過程はこの逆で,残留水分の減少とともに接触角は緩やかに回復していく。特に低塩分濃度での劣化に対しては,4,500時間後には全ての温度領域の接触角低下に対して完全な回復がみられた。
これらの傾向は一般的にはEPDMとシリコーンのゴム試料でも観測されたが,ゴム試料では低表面エネルギー物質(一般にシリコーンゴムでは低分子量物質:LMWと言われている)の試料表面への拡散のため,その接触角の振る舞いは必ずしも吸水量やその導電率の増加とともに低下しない。当然,試料中から試料表面へ,さらには試料表面から溶液中へのLMWの拡散も高温の方が顕著となる。従って,後で述べる吸水や塩分付着による試料の表面エネルギーの上昇要因と,LMWの試料表面への移動による,その低下要因が混在することになり,ゴム試料の接触角の測定結果を吸水量に対して見かけ上複雑にしていると考えられる。特にLMWは試料表面の付着塩分の表面も覆うと考えられ[11,12],塩分が付着した高温・高塩分濃度での劣化後の試料も,初期クリーニング後の値以上に撥水性を回復したのは興味深い結果である。これには塩結晶の付いたフラクタル表面は撥水性の物質で覆われれば超撥水性となる性質を有すること[10]にも関係していると考えられる。高温・高塩分濃度での塩水浸時には吸水が少なくなるのも興味ある結果である。
室温・空気中での接触角の回復過程についてはナイロンとゴム試料の両者とも試料中の水分の蒸発に伴い接触角は大きくなり,表面エネルギーも元の値へ向かって回復した。特にEPDMとシリコーンのゴム試料では高温・高塩分濃度での劣化試料など,洗浄後の初期の値以上まで回復した。
ゴム試料のLMWの流出や試料表面への拡散を評価する手法として,試料をヘキサン(Hexane)中に浸してその溶出を行い,その量を質量変化で評価する手法がある。[11,12]
Fig.7にEPDMとシリコーンゴムのヘキサン処理の後の重さの回復過程を示す。試料の膨潤により,ヘキサンはそれぞれ試料の自重の73%と59%も吸収されるが,室温・空気中ですぐに蒸発していく。Fig.7より,それぞれ1.6と1.9重量%程度のLMWが抽出されたことになる。EPDMゴムではLMWの存在は特に報告されていないが,シリコーンゴムと同程度の低表面エネルギー物質が存在していたと考えられる。
3.3 表面自由エネルギーの評価
固体及び液体の表面および界面エネルギーとその接触角の関係は,一般にヤングの式
(Young's equation ),
やデュプレの式 (Dupre equation),
γSL = γS + γL - WSL (2)
ヤング−デュプレの式 (Young-Dupre equation),
などと表される。従って,表面エネルギーが既知である2種類の液体の接触角の測定結果から,調和平均式(Harmonic
mean equation: HME)または幾何平均式( Geometric mean equation)を用いて,固体の各エネルギーを求めることができる。ここで,S,
L, Vの各記号はそれぞれ固体,液体,気体を意味しており,γは表面または界面自由エネルギー,Wは吸着仕事の自由エネルギーである。
3種類の試料の劣化時と回復時の,水とMIを用いた接触角の測定結果により次のHMEを用いて試料の表面自由エネルギーを解析した。[5,7]
ここでD, Hの各記号はそれぞれ表面自由エネルギーの分散成分,非分散成分を意味している。水とMIの表面エネルギーのHMEに対する分散および非分散成分はそれぞれ,
γL = γLD + γLH . (5)
を用いている。以上による,表面エネルギーの解析結果を Fig.8に示す。なお,各試料の洗浄・乾燥後の劣化前の表面自由エネルギーの値はそれぞれ次の通りであった。
4. まとめ
塩水の吸収によるナイロン・EPDMおよびシリコーンゴム試料の撥水性の低下とその室温空気中での回復過程について,水分の試料中への拡散係数や試料の表面エネルギーの変化を考慮しつつ検討した。その結果,
などが確認された。
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