1.はじめに
本研究室ではこれまでに、FFT波形解析によるデジタル信号処理技術を応用した高電界誘電特性解析システムを構築してきた。このシステムは、A/Dコンバータを通して記録した波形データを一旦パソコンの記録媒体に保存し、測定終了後にFFT解析プログラムによって各種計測値の解析を実行するものであった。しかしながらこのシステムは、計測系の高度化・高速化の要求、特に絶縁破壊を未然に防ぐなどリアルタイムな絶縁劣化診断を目指した波形解析を可能にするという要求に対しては根本から見直す必要があった。そこで本研究室では高い計算能力を備えるマイクロプロセッサ「DSP」を導入し、リアルタイムに波形解析可能なシステムの構築を目指した。一昨年度までにシステムのリアルタイム化の可能性が示唆されていたので、今年度は完全にリアルタイム化され、かつ電源の制御も可能なシステムの構築を目指した。
2.本システムの概要
本システムは周波数50.81Hzにおいて、ゼロクロストリガをかけながらA/Dコンバータを通して取り込んだ波形データに対して、2チャンネル同時に波形の1周期ごとにリアルタイムなFFT波形解析を連続して行うことが可能である。各チャンネルに対して波形取り込みとFFT演算の2つのデータ処理系を並列同時実行することにより、波形を取りこぼすことなく解析可能となっている。解析された波形のスペクトルデータは、直流成分から第10高調波まで、連続した300波形分(6秒分)についてパソコンに保存可能である。また、入力波形のスペクトルの特定の成分が増加した際には、それをリアルタイムに検出し、電源部制御信号を出力することが可能である。
3.実行結果の一例
本システムに任意波形発振器から振幅4V、周波数50.81Hzの方形波を入力し保存したスペクトルデータの一例を図1に示す。方形波のスペクトルは振幅をVmとするとフーリエ級数展開より基本波が4Vm/π≒5.1V、n次高調波は基本波の1/nとなる。測定結果は理論値とよく適合しており、sin成分はImagスペクトルとして検出されることがわかる。これより本システムはひずみ波の波形解析にも有効であることが確認できる。
図2にCR回路に3連ランプ交流波形を印加した際の印加電圧波形の基本波の時間変化を示す。図から、3連ランプ波の最初から最後まで300個のデータ全て取り込んで収まっていることがわかる。また、2チャンネル同時解析によりCH0とCH1の入出力特性も算出できる。
4.まとめ
非線形な導電特性を持つ、誘電体内を流れる微小導電電流波形は正弦波電圧印加時もひずみ波となると考えられる。これを本システムはリアルタイムに測定するのに有効である。また電源系の制御信号を出力することにより、特定のスペクトル成分が増加し、絶縁破壊の危険が高まったときなどにそれをリアルタイムに検出し印加電圧を遮断することも可能となる。今後の課題として、現状では測定できる周波数は固定だが、これを任意の周波数で自動的に測定可能にすることが挙げられる。またDSPから印加電圧波形を出力できるようにすることで、システム単独で高速に伝達関数の測定等が可能なシステムの構築が考えられる。