第12回複合絶縁の界面現象調査専門委員会資料 IP−12−6
岐阜工業高等専門学校 所 哲郎 平成9年4月18日
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第6章 界面特性評価技術
6-1 物理的な界面評価法
接触角による表面エネルギーの評価法
分子間力や表面力はあらゆる物質の間で働いており、界面現象を決定する重要な要素である
[1]。絶縁材料の界面現象の一つである材料表面の撥水性は、絶縁体表面初期劣化過程の指標の一つとして用いられ、蒸留水などの水滴の接触角として評価されることが多い。この現象面は本報告の3.4.1に述べられているので、ここでは接触角を決定する表面エネルギーについて概説し、その評価方法について述べる。固体および液体の表面エネルギー(
surface energy)γは分子間力と表面間力によって決定される。液体では通常γは表面張力(surface tension)と言われ、自由な液体は常に表面積を最小にして、その表面エネルギーを最小とする。固体(S)と液体(L)が付着するのは付着仕事(work of adhesion)WSLによりエネルギー的に安定化するためである。これに対して水滴の形成など、同種(1と1)の付着を凝集仕事(work of cohesion)W11という。これらの仕事は常に正であり、自由エネルギーγとγ1 = (1/2) W11
(1)の関係がある。固体の場合、この単位は単位面積当たりのエネルギー
[mJm-2]または[erg cm-2]、液体の場合は単位長さあたりの表面張力[mNm-1]または[dyn cm-1]で与えられる。両者は数値的にも次元的にも同じものである。また、1と2の二つの互いに混じり合わない液体の界面を単位面積だけ拡張するときの自由エネルギー変化を界面エネルギー(interfacial energy)または界面張力γ12という。さて、表面張力により大気中ではほぼ球形である液体の小滴が、固体表面に接触し、固体・液体界面を形成する場合、その接触角(
contact angle)θは一般に、表面張力などの自由エネルギーの固体表面での平衡条件により、ヤングの式(Young’s equation)でγSL +γLV cosθ = γSV
(2)と表される。ここで、γSL、γLV、γSVの
Sは固体、Lは液体、Vは気体の各2相間の界面エネルギー(または表面張力)である[2]。接触角が10度以上の場合は固体自身や液体自身の表面エネルギーを用いてγSL + γLcosθ = γS
(3)と表せるが、接触角が
0度に近く小さい場合は、次の固体成分蒸気の表面エネルギーへの影響を考慮する必要がある。πe = γS - γSV
(4)付着仕事と界面エネルギーとの関係は
γSL = γS + γL - WSL
(5)と表され、
(2)と(5)式により、次のヤング・デュプレの式(Young-Dupre' equation)が導き出される。γL ( 1 + cos θ ) = WSL
(6)水などの分子構造にダイポールモーメントを有する物質の表面エネルギーは、固体・液体とも、その分散成分(γSD, γLD )と非分散成分(γSH, γLH )を用いて次のように表される。
γS = γSD + γSH
(7)γL = γLD + γLH
(8)これらの関係から、水とメチレンアイオダイド(
Methylene iodide)など、表面エネルギーが既知の2種類の液体の接触角を用いて、次に示す調和平均式や幾何平均式により固体表面の自由エネルギーを決定することが可能である。[2,3]。γSL = γS + γL - 4γSDγLD / ( γSD + γLD ) - 4γSHγLH /( γSH + γLH )
(9)また、接触角は、静止接触角・前進接触角・後退接触角など、水滴の履歴により変化することがある。この原因としては、試料表面の粗さの影響[4]や水滴の付着に伴う固体内ダイポールの配向による表面エネルギーの変化[5]などが報告されている。
REFERENCES
[1]. J.N.イスラエルアチヴィリ著、近藤/大島訳「分子間力と表面力」,朝倉書店, 1995.
[2]. Wu, S. “Polymer Interface and Adhesion”, Marcel Dekker, Inc., pp.98-104, 169-181, 1982.
[3]. Tokoro.T, 「塩水吸収による高分子絶縁材料の撥水性低下と界面エネルギー」,電気学会研究会資料DEI-97-39,1997
[4]. Onda T., "Super-Water-Repellent and Superwetting Phenomena of Fractal Surface", IEEJ Trans. Vol.116-A, No.12. pp.1041-1046, 1996
[5]. 小松原 実,石井 勝,「屋外用高分子材料表面の評価法の検討」,電学論A111巻2号,pp.97-103, 1991.
[1]. Israelachvili, J. “Intermolecular & Surface Forces”, Academic Press, pp.31-47, 48-66, 122-151, 312-337, 1995.