シート状試料の誘電特性解析システムの開発

05E03 稲垣 栄吾

1.はじめに シリコーンゴムは交流電界下における絶縁材料として用いられており、その高電界誘電特性を把握することは大変重要な意味を持つ。本研究では、RTVシリコーンゴムとHTVシリコーンゴムを試料として、その高電界誘電特性を測定可能なシステムを開発してきた。本システムを用いて、これら試料の水浸劣化及びその乾燥回復過程について、従来の体積方向のみならず、試料の表面方向に電界を印加した状態での測定も行い、各特性の変化について研究を重ねてきた。

2.実験方法 シート状の厚さ 236oの上記試料を用いて、表面洗浄直後と洗浄後長時間経過した試料の体積、表面方向におけるtanδと静電容量の厚さ依存性を、ブリッジ同調手法により測定した。その後、高電界誘電特性測定手法により、試料のtanδ、損失電流の電界依存性を観測した。測定周波数は50Hz]とし、測定温度は室温とした。次に、アベレージングを用いた測定を行い、先の測定との比較を行った。更に、この測定系を用いて、試料の水浸劣化及びその室温、大気中での回復過程における、tanδと損失電流の電界依存性の測定を行った。試料の劣化過程の測定は、事前に調べておいた浸水時間と吸水量の特性のグラフより、吸水量が0、5090100%]となる時間で行い、回復過程の測定は、同様に回復量が0、509095100%]となる時間に行った。

3.測定結果及び考察 表面洗浄処理直後と長時間経過した後では、体積方向ではHTVで静電容量やtanδの値の違いが見られたが、厚さ依存性には変化がなく、RTVについてはほとんど変化が見られなかった。表面方向では、洗浄を行った直後の方が、特性が安定していることが分かった。試料シートの厚さによる変化は、静電容量が体積方向はほぼ反比例となり、表面方向はあまり変化が無かった。

高電界誘電特性の測定におけるアベレージングの有無による測定結果の比較では、回数を増やす毎にノイズが除去されることが確認できた。

HTV試料における水浸劣化過程での高電界誘電特性の変化は、劣化とともに体積方向、表面方向の静電容量、体積方向の交流損失電流は増加し、表面方向の交流損失電流とtanδ及び図1に示す体積方向のtanδは減少する事が分かった。回復過程では、一般に水浸劣化過程の逆のふるまいを示したが、図2に示した体積方向のtanδの電界依存性にも現れているように、値がばらついてはっきりとした特性を見出すことが出来なかった。

4.まとめ ブリッジ同調手法によるtanδの測定結果と、高電界誘電特性測定手法での結果の対応がとれていることが確認できた。また、シート状試料の測定には、アベレージングなどのノイズ除去が大切であることが確認された。

3回目の水浸劣化による体積方向のtanδは、吸水が進むにつれて減少した。また、回復過程では、逆に増加した。これらの現象は、劣化と回復を数回繰り返す事により、シリコーンゴム試料内部の低分子量成分(LMW)が抜け出てしまう事に関係すると考えられる。すなわち、一度劣化した試料は、どれだけ乾燥させたとしても、完全に初めの状態には戻らないことが示唆される。