電気絶縁材料の吸水と撥水性の低下に関する研究
05E15 白木 亜矢
1.はじめに シリコーンゴムは、ケーブル被覆絶縁,耐熱パッキング材などの被覆絶縁物や屋外送電線用の懸垂がいしとして用いられ、耐老化性,耐水性,耐コロナ性,耐油性,耐熱性,耐寒性などに優れている。また、耐オゾン性,耐アーク性も良好で表面漏れ抵抗が高く、電気的性質が良好である。本研究では、このような屋外絶縁物の劣化を研究対象とするため、RTV,HTVシリコーンゴムを試料として用い、その吸水および乾燥時の撥水性の変化について調べてきた。
2.試料及び実験方法 厚さ2,3,6oのシート状の上記試料を用いて、各温度(0,25,50,75,および98℃)の蒸留水及び塩水に浸し、重さと接触角の変化を測定した。重さは、上皿電子分析天秤で測定した。重さの変化率の計算方法は、最初の重さを100%としてその増減分を調べるために、{(測定値)/(最初の重さ)}×100で求めた。接触角の測定は、水平に置いた試料の上に注射器で水滴を落とし、マイクロスコープカメラで拡大し、8oビデオと接続してその形状を録画した。この画像を用いて、高さと底面半径で求める液滴法と直接分度器で測る2つの方法で接触角を求めた。
水浸劣化過程では、試料を浸してから所定の時間ごとに試料を取り出し、試料の表面の水滴を除去してから測定した。乾燥回復過程では、試料を浸水液から出して、デシケータの室温大気中に保存し、所定時間ごとに測定した。
3.結果及び考察 図1にHTV、RTV2o厚試料の50℃の蒸留水浸における重さの変化の測定結果を示す。水浸劣化過程では、試料を浸してから数十時間は急激に吸水し、その後飽和した後に、ゆっくりと減少した。吸水は、試料の厚さが薄く、水浸温度が高温であるほど早く行われた。また、RTVよりHTVの方が、塩水より蒸留水の方が吸水量は多かった。
乾燥回復過程では、最初の数時間で急激に乾燥し、その後ゆっくりと回復した。乾燥後に初期値より軽くなるのは、試料中の低分子量成分(LMW)の溶出による。乾燥回復も、試料の厚さが薄く高温で劣化した試料ほど早かった。HTVとRTVの回復過程には、大きな違いは見られなかった。
図2には、接触角の測定結果を示す。接触角は、吸水劣化とともに低下し、その乾燥回復とともに上昇した。また、HTVよりRTVの方が接触角の変化は大きかった。重さが増加するほど接触角は低下し、重さの変化が飽和した後も接触角は微量だが低下した。
重さの変化を測定するには、電子天秤の測定中の時間的ドリフトが無視できない大きさであるため、測定の都度校正が必要であることが分かった。また、接触角の測定は、液滴法よりも直接分度器で測った方がより正確に、劣化・回復過程を評価できた。
4.まとめ 吸水劣化・乾燥回復とも、試料の厚さが薄く高温であるほど早く行われる。RTVよりHTVの方が、又塩水より蒸留水の方が吸水量は多い。接触角は、吸水とともに低下し、その蒸発とともに上昇する。試料の重さが増加するほど接触角は低下し重さの上昇が飽和しても微量だが低下する。乾燥後は、初期値以上に回復する。これらには、試料中のLMWの溶出が関係している。