シリコーンゴムの吸水劣化と

誘電特性の変化に関する研究

06E13 國井稔枝

1.はじめに シリコーンゴムはケーブル被覆絶縁・耐熱パッキング材・機器コイルの口出線などの被覆絶縁や屋外送電線用の懸垂がいし等として、交流電界下における絶縁材料として広く用いられている。このため、その高電界誘電特性を把握することは重要であり、特に屋外絶縁物としての劣化過程の測定方法を開発することが望まれている。本研究ではこのことを目的として研究を進めてきた。

2.試料及び実験方法 厚さが6mmで異なった製造条件のRW、HW及びHDシリコーンゴムの3種類を試料として、静電容量とtanδをブリッジ同調手法で測定した。電極系は平行平板同心円状三端子電極系を用いた。また、この電極系で試料の厚さ方向(体積方向)と試料表面方向の電界印加の測定で生じる漏れ容量を評価し、より正確な比誘電率を算出するため、試料の電界解析を行った。
 水浸劣化温度を変えた場合の誘電特性(静電容量とtanδ)の変化を、水浸劣化及び室温・大気中での乾燥回復過程について測定した。また、体積方向に加えて、測定用電極を試料の表面にのみ設置可能な場合を含めて、その誘電特性の測定を行うことを試みた。

3.結果及び考察 測定によって得られた静電容量から試料の比誘電率を求める計算方法について検討した。測定に用いた主電極-ガード電極間が狭い電極系では高電圧電極から生じた電気力線は、電界解析の結果、直線上に伸びて主電極に達していることと、主電極とガード電極の中間までの電気力線が主電極に検出されることが分かった。この電気力線分布より、主電極の半径をガード電極の中間まで拡張して考えると、漏れ容量を考慮せず静電容量の基本式であるC=ε(S/d)(ε:試料の誘電率、S:主電極面積、d:試料厚さ)によく当てはまることが分かった。
 次に、シート状シリコーンゴムの水浸劣化・乾燥回復過程における誘電特性の変化を試料の体積方向と表面方向で測定した。その結果、体積方向の測定では図1のようにRWシリコーンゴムは水浸・乾燥による静電容量やtanδの変化が最も小さく、損失や比誘電率も小さいので電気絶縁体として良好な性質を持っている。HWシリコーンゴムは吸水・乾燥による試料重さの変化が誘電特性の変化と良く一致している。HDシリコーンゴムは水浸による静電容量の増加と、乾燥によるその減少が最も顕著であるが、1回目の劣化前の状態までは戻りにくい。
 表面方向の静電容量測定結果を図2に示す。体積方向と同じ傾向を示すが、測定結果が安定していない。電界解析結果より、電束密度は電極間隔の2/5の試料深さまでしか侵入していないので、試料の誘電特性が変化した以上に、電極の接触状態により表面方向の測定値が見かけ上ばらつくのだと考えられる。
 また、表面方向からの測定に対して、電極間隔を変えずに電極の形状等を変化させた場合の電界解析も行ったが、誘電特性を検出できる試料表面からの深さは同じであった。

4.まとめ シリコーンゴムは試料の種類によって吸水量に大きな違いがあり、誘電率は吸水量にほぼ比例して増加し、tanδも吸水量の増減に対応する傾向があることがわかった。表面方向の電界印加では、電極間隔を変化させないと試料の厚さ方向の検出深さは変化しないことが電界解析により確認できた。


図1 水浸劣化と乾燥回復における静電容量の変化
      (体積方向2回目の測定)


図2 水浸劣化と乾燥回復における静電容量の変化
      (表面方向2回目の測定)