電気絶縁材料の撥水性の画像解析に関する研究

 

07E28 長谷川 公明

 

1.はじめに シリコーンゴムは優れた電気的特性に加えて、高い表面撥水性を有しており、屋外用がいしとして広く用いられつつある。その初期表面劣化過程の一指標として、材料表面の撥水性低下を観測することは非常に有用である。本研究では従来行われている接触角の測定とSTRI法を基にした撥水画像解析による、撥水レベル(HC)の自働診断を目指して研究を進めた。

2.実験方法 HTVシリコーンとEPDMの2種類のゴム試料を用い、それらの吸水劣化および乾燥回復過程における試料重量,静止接触角,撥水性画像をそれぞれ測定した。撥水性画像は水平に置いた試料表面に蒸留水を噴霧し、鉛直方向よりCCDカメラで撮影した。画像データはNIHImageにより画像解析し、水滴面積の大きさ分布および水滴の真円度についての計測を行った。実験は試料(HTVEPDM)の水浸劣化過程(75℃・98℃)と、乾燥回復過程(75℃・98℃)、ヘキサン浸(40℃)、ヘキサン浸後の乾燥(40℃)の各行程を組み合わせて行った。また、画像解析用の試料面の水滴の照明方法についても検討した。

3.実験結果および考察 接触角の測定結果より、水浸過程では基本的にどの試料であっても接触角は低下した。逆に乾燥過程では基本的にすべての試料で接触角は回復した。接触角の変化の原因は、水浸過程では試料表面近くの低分子量油分(LMW)が溶出し、水が吸収されたためである。これらにより試料の表面エネルギーが上がり、接触角が低下した。LMWの溶出は撥水性を低下させるが、水分の蒸発は逆に回復させる。
 水浸→乾燥後の
2回目の水浸過程は、1回目の水浸過程よりも水を吸収する速度が早い。これは、1回目の水浸によってLMWが溶出しているために、その部分に水が吸収されやすい為である。しかしながらその吸水量の増加は溶出したLMWの重量よりかなり小さい。
 乾燥過程では基本的に撥水性が回復するが、ヘキサン浸後の
40℃での乾燥では水滴の真円度が逆に低下した。これは、ヘキサン浸によって試料表面及び内部のLMWが溶出するため、撥水性が低下したためである。ヘキサン浸後の乾燥回復時に更に真円度が低下するのは、ヘキサン浸後の乾燥時に試料重量が極小値を示した後、極僅かに増えている事から、ヘキサン浸により蒸発していた試料中の水分が、空気中の水分の吸収により増加していくため、撥水性が低下するためと考えられる。
 水浸劣化状態から乾燥へと移行した直後は、重量変化には現われないが接触角測定により試料表面の撥水性が一時的に低下することが
EPDM試料で確認された。この現象は劣化回復への移行直後に試料温度が設定値より下がったため、試料上の水滴の表面張力が上昇し、回復直後の撥水性が見かけ上高く評価された可能性を示唆している。
また、望遠顕微鏡カメラを用いた、約1
mmと極めて小さな画像でも、噴霧液の表面張力や試料劣化状態の差を撥水画像の変化として、水滴の大きさや円形度から評価可能であることが確認できた。(表1
画像取り込み時の照明に関しては、試料表面を図1のように液滴の周囲を全方向から照射できる照明の有効性が示唆された。
撥水性診断時における液滴の噴霧量による水滴の大きさ変化に対しては、その大きさの動的変化を画像測定すれば、噴霧水量に対する依存性を計測可能となり、本研究で提案している液滴の真円度と接触面積分布を用いた撥水性の定量的な解析の精度を向上できる事が示唆された。

4.まとめ 本研究により正確な撥水性の画像診断を行える様になった。今後,HCレベル分けに必要な定量的基準を画像解析指標から見出し、画像処理結果からのHCレベルの自動判断を行える様、画像解析ソフトの改良が望まれる。

図1.照明環境設定    

(a)照明設定   (b)光源と試料の位置

表1.微小範囲(約1mm)の撥水性診断 (HTV)

噴霧液の表面張力[mN/m]

乾燥後

水浸後

72.8

55

72.8

55

大きさ[pixel]

464

3768

14058

19933

真円度[%]

87

57

77

46