くし形電極を用いた電気絶縁材料の

誘電特性測定に関する研究

07E33 三島希美枝

 

1.はじめに シリコーンやEPDMゴムなどの高分子材料は、がいしなど屋外用電力設備の絶縁物としてその用途を拡大しつつある。このため、それらの高電界誘電特性を把握することは大変重要であり、特に屋外絶縁物としての吸水劣化過程の測定・評価方法を開発することが望まれている。本研究では試料の一表面からの誘電特性測定による劣化診断を目的として研究を進めてきた。

2.電極・試料及び実験方法 電極系は電極端の形状が四角と丸の2種類で、電極幅が1mm、2mm、4mmの合計6組のステンレス製くし形電極系を用いた。電極端の形状の違いによる電界緩和効果を確認するため、電極系の容量計算と電界解析を行った。また、HTVシリコーンゴムがいしとEPDMゴムがいしの笠部分を約10gの小片に切りとり試料とし、上記の電極系で誘電特性を評価した。測定は、くし形電極に試料を乗せた場合と乗せない場合に対して、静電容量と漏れ電流IXRについて交流ブリッジで行い、両者の差分をとることにより、試料のみの誘電特性を評価した。
 試料の75℃と98℃における水浸劣化過程と乾燥回復過程における誘電特性と重量変化の対応、および、試料をヘキサンに浸し低分子量成分
LMWの溶出を行った場合の変化についても測定した。

3.結果及び考察 電極端の形状を変化させた場合、どの程度電界分布に変化が表れるか二次元電界解析を行った。その結果、電極端が四角い場合2.6倍、電極端が丸い場合1.9倍の高電圧電極端部での電界集中が認められた。実際に幅4mmの電極に8kVp−pの交流ランプ電圧を印加した時の漏れ電流の印加電界依存性を図1に示す。図より電極端が四角い場合は約0.6kV/mmで放電し、電極端が丸い場合は放電していないことが分かる。上記の電界集中を考慮すると、約1.56kV/mmで部分放電が開始したことになり、大気の絶縁破壊強度3kV/mmの約52%で放電している。従って実際の三次元モデルでは更に電界集中が強くなることが予想されるが、電極端の形状の違いにより部分放電発生電界が変化することと、円形端部処理の有効性は確認できた。
 次に、
HTVEPDMゴム試料の水浸劣化と乾燥回復過程における誘電特性の変化を、試料の表面から測定した。その結果の一例として、HTVIXRを図2に示す。電極間隔は2mm、電極の有効長は423mm、交流ランプ電圧最大値は2kVp−pである。また、くし形電極の上部と下部への漏れ容量は2mm幅の電極系で各々0.82pF程度と極めて小さい。
 試料は吸水することにより、重さ、容量、
IXRが増えた。水浸を2回繰り返すと、吸水はより早く飽和する。HTVでは吸水量はやや多くなるものの、1回目と2回目の吸水で飽和吸水量に大きな違いは無く、75℃で0.81%、98℃で1.09%程度であった。EPDMでは75℃の1回目と2回目で1.0%程度から1.7%程度と、吸水量に顕著な増加が認められた。誘電特性に関しては、特にHTV75℃の2回目において、1回目より容量は増え、漏れ電流は非線形な急増を示した。(図2)
 試料は乾燥することにより、重さ、容量、漏れ電流とも減り、特性が回復していくことが分かった。また、ヘキサンに浸した後、十分に乾燥させると、重さは試料中の低分子量成分LMWに加えて試料中の水分も抜けた分軽くなり、容量、漏れ電流は劣化前に比べて小さくなった。

4.まとめ 2種類のくし形電極において、円形端部処理の有効性が電界解析と実測定により確認できた。また、試料のくし形表面接触電極を用いた誘電特性(静電容量と漏れ電流)の測定は、約0.82pF程度の極小さな漏れ容量でも試料の吸水劣化と乾燥回復過程を評価可能であることがわかった。

図1 電極端の形状の違いによる漏れ電流の変化

図2 HTVシリコーンの水浸劣化および
   乾燥回復後の漏れ電流の電界依存性