シリコンゴムの誘電特性と撥水性の低下に関する研究

04E40 山田 裕之

1.はじめに シリコーンゴムは、架空送電線用のガイシなど交流電界下における絶縁材料としても用いられることが多く、その高電界誘電特性を把握することは大変重要である。本研究ではこのような屋外絶縁物の劣化過程を研究対象とするため、RTVシリコーンゴムとHTVシリコーンゴムを試料として用い、その高電界誘電特性と水浸劣化による撥水性の低下に関して調べてきた。 2.実験方法 シート状の厚さ236oの上記試料を用いて、低電界にてブリッジ同調手法によるtanδとCの測定を行った後、交流損失電流観測手法により、交流ランプ電圧波形によってRTVシリコーンゴムとHTVシリコーンゴムのtanδ等の電界依存性を観測した。測定周波数は50Hz]とし、測定温度は室温とした。さらに、5%の酢酸での表面洗浄の有無による測定結果の比較や、前回まで行っていなかった表面漏れ電流の評価を3端子電極構成によって行った。また、試料表面の撥水性の観測をマイクロスコープモニタによる接触角測定により行った。試料の劣化は、蒸留水に浸すことにより行い、数時間おきに高電界誘電特性と撥水性の変化を評価した。撥水性の低下は、高電界誘電特性測定用の試料とは別にシリコーン片を作っておき、観測システムに試料を設置し、蒸留水の水滴を約12個滴下して、その接触角θの平均により求めた。今回用いた劣化手順は、「蒸留水に浸す前の状態で測定→30分浸す→測定→1時間浸す→測定→3時間浸す→測定→6時間浸す→測定→12時間浸す→測定→18時間浸す→測定→24時間浸す→測定→測定終了」で、総水浸時間は64.5時間、各々の測定(大気中での回復)は90分とした。

3.実験結果及び考察 RTVシリコーンゴムとHTVシリコーンゴムの表面洗浄の有無による影響は、体積方向と表面方向ともに静電容量、tanδ、交流損失電流検出電圧にほとんど変化は無かった。接触角の変化もほとんど見られなかった。

1 水浸劣化による体積方向tanδの変化

水浸劣化による高電界誘電特性の変化は、RTVシリコーンゴムは体積方向と表面方向ともに静電容量、tanδ、交流損失電流検出電圧にほとんど変化は無かった。HTVシリコーンゴムは、表面方向はほとんど変化が見られなかったが、図1に示すように、水に浸す時間が長くなると体積方向のtanδが大きくなることが分かった。また、静電容量、交流損失電流検出電圧も大きくなっていった。 2に水浸劣化による撥水性の変化を示す。両シリコーンとも撥水性は初め向上し、その後初期の値近くに落ち着く傾向を示した。本劣化条件がシリコーンゴム表面の劣化には不十分であることまたは接触角測定が劣化指標として必ずしも最適でないことが分かる。特に後者の要因に対しては、シリコーンゴムは一般にLMWといわれる低分子量・低表面エネルギーの油成分を多分に含んでいるため、今回の劣化条件程度では表面劣化が進まないからだと思われる。

  図2 水浸劣化による撥水性の変化

4.まとめ RTVシリコーンゴムより、HTVシリコーンゴムのほうが静電容量、tanδ、交流損失電流検出電圧とも全体に大きく、かつ、水浸劣化による影響を特に体積方向で受けやすい事が分かった。また、表面方向の誘電特性測定の可能性についても検討できた。