平成１１年　電気学会全国大会原稿

　筆者らは屋外用絶縁材料として広く用いられているシリコーンゴムなどの、撥水性の劣化と回復現象について研究を進めている。撥水性は一般に、蒸留水水滴の接触角や試料面全体の撥水状態をクラス分けしたHC指標（STRI法）により評価されている。⁽¹⁾　撥水性評価用の液体としては、蒸留水や塩水が用いられており、導電率により試験条件が規定されている。撥水性はこの液体と試料である固体との界面エネルギーによって決定されるため、液体の表面張力を把握しておくことは大変重要である。特にシリコーンゴムは低表面エネルギー成分（一般には低分子量成分;LMW）を含んでおり、その液体中への溶出に対しての検討も必要である。

　今回、液体としては蒸留水（3 mS/cm, 72.8 mN/m）を用いた。これに、ドデシル硫酸ナトリウムを微量添加することにより、その表面張力を変化させた。また、食塩水や青色インクで着色した水の表面張力も測定した。表面張力の測定には、島津製作所製の液体表面張力計Model DNを用いた。試料としては、トラッキング試験用のシリコーンゴム試料を２分割したもの（50×60×6mm）を用いた。記号RWはRTV、HW、HDはHTVシリコーンゴムである。

　蒸留水などの接触角により求めた、固体の表面エネルギーは、シリコーンゴムが31.5 mN/m、EPDMゴムが24.7 mN/mおよび、ナイロン6/6が46.1 mN/m程度であった。液体の表面エネルギーは、蒸留水の文献値が72.8 mN/mで、測定値は、室温3mS/cmが72.4 mN/m、5℃で73.2 mN/m、50℃で71.0 mN/m　であった。また、導電率に関しては、塩水・室温 10mS/cmが71.8 mN/m、室温・ 90 mS/cmが71.3 mN/mであった。温度と食塩による導電率の増加に対しては水の表面張力はあまり変化しないのが分かる。これらに対して、５％の酢酸水では59.4 mN/m、画像解析用に青色に着色した水では46.9mN/mと大きく変化した。そこで、HTV試料を蒸留水に浸してその表面張力を測定したところ、HTV 30x30x3mm,1枚で58.5 mN/m、9枚で43.1 mN/mまで大きく低下した。

　３種類の試料を各設定温度の200ｍｌの蒸留水に浸して、水浸液の表面張力、試料の重さ、接触角を測定した。表面張力の測定に際しては、各測定の前に、溶液を２分間撹拌した。表面張力の測定結果をFig.１に示す。表面張力の値は水の密度による補正を済ませてある。すべての試料で低温であるほど表面張力が大きく、溶液温度が上がると表面張力が小さくなる傾向を示した。これより、試料中の低表面エネルギー物質が溶液中に溶けだしており、高温側ほどその低下は顕著となることがわかる。試料の重さについては、水につけている時間が長いほど重くなっていき、試料に含まれる油分（LMW）が水に溶け出す以上に試料が吸水していると考えられる。この質量増加は全ての試料で高温での水浸ほど顕著となる。１週間後の吸水量はRWが0.1%以下である。それに対しHWとHDはそれぞれ0.3%　および　0.8%　変化している。

　次に、静止接触角については、全体的には吸水に伴い接触角が低下するという傾向が見うけられる。RWが最も撥水性が高く、HDが最も撥水性が低く、HWはその中間という結果になった。これらは、STRI法で肉眼でも確認できた。試料の種類に関しては、前述の試料重さの増加との対応があるのがわかるが、温度上昇による吸水量の増加と、接触角の低下との対応は、必ずしもとれていない。高温側ではLMWが水に溶けやすい反面、試料表面に移動しやすくもなるため、複雑な振る舞いをすることとなる。

　全体としていえることは次の通りである。1．すべての試料は時間とともに油分が溶けだし蒸留水を吸水する。２．すべての試料は浸水温度が高いほど吸水と油分の溶出が早い。３．撥水性が低くなったのはＨＤとＨＷで、特にＨＤにおいて撥水性の低下と吸水が顕著であった。４．ＲＷは撥水性の低下・吸水とも少ない。なお、本研究の一部は平成１０年度文部省科学研究費（基盤研究（C））の援助によって行われた。