表面接触電極を用いた高分子フィルムの高温高電界誘電特性測定系の開発

空間電荷形成に関する検討

 

PPフィルムの絶縁破壊に近い高温交流高電界誘電特性領域空間電荷形成関する検討における

 

充電電流増加に対する考察空間電荷が交流損失電流波形に及ぼす影響について

 


正員 藤井雅之   大島商船高専  

正員  哲郎*進藤久典,小ア正光   岐阜高専 

正員 穂積直裕    ( 豊橋技科大

正員 遠山和之山和之 ( 沼津  

正員 所  哲郎          正員 遠山和之 (  沼津高専   

正員 村本裕二 (豊 大)

正員 村本裕二   穂積直尾雅行 

正員 長尾雅行ア正光   


 

Development of High-f Field Dielectric Measurement System Properties of Polymerwith Surface Contact Electrodes Film in High Temperature Region and Space Charge Formation

Masayuki Fujii, Member (Oshima National College of Maritime Technology), Kazuyuki Tohyama, Member (Numazu College of Technology), Tetsuro Tokoro, Hisanori Sindo, Masamitsu KosakiMember (Gifu National College of Technology), Yuji Muramoto, Member (Toyohashi University of Technology), Naohiro Hozumi (Toyohashi University of Technology), Masayuki Nagao, Member (Toyohashi University of Technology)

 


 1.まえがき

   シリコーンゴムなどの高分子がいしの利用材料優れた近年急速に拡大しつつある高分子は磁器がいしと比べて、表面からの吸水や汚損などその誘電・絶縁特性に大きく影響すると考えられる。本研究では、高分子材料非破壊絶縁劣化診断を実施する上で、電極系を試料の片側表面にのみ設置し、その誘電特性を測定・評価する手法の確立を目指しすなわち、試料を電極系で挟み込むことが不可能な場合にも、試料の厚さ方向の平均ではなく、表面からの深さ方向感度をする誘電計測手法の確立を目指すしているが,交流高電界領域におけるそれらの特性については未知な部分が多い。交流高電界下で高分子材料中を流れる交流損失電流には高電界誘電特性に関する様々な情報が含まれていると考えられ,近年この交流損失電流から高電界誘電特性を評価する手法が確立されてきた(1)

 

筆者らはこれまでにポリプロピレン(PP)フィルムの室温高電界誘電特性について調査してきた。その結果絶縁破壊に近い交流高電界領域において,充電電流の不平衡成分の増加からキャリア注入による空間電荷形成の可能性が示唆された(2)。今回はポリプロピレン(PP)フィルムの高温高電界領域で形成される空間電荷について検討したので報告する。

 2.試料および実験方法

試料としてはHTVシリコーンゴムを用いた。試料図1に示す厚さ3 mm電極間隔2 mmのステンレス製くし形電極系上に設置し、電流比較型の高電圧tanδ・キャパシタンスブリッジを用いて高電界誘電特性の測定を行っ。測定は、シールドされた恒温曹中アクリル板上に図1の電極系を設置し、その上にシリコーンゴム試料を乗せて高電界誘電特性を測定した。測定に際しては、試料をくし形電極に乗せる前と何も乗せない状態で測定を行い、両者の差分をとることにより試料中への電流成分のみを評価可能する。静電容量やtanδ評価は交流損失電流検出手法を応用して行う。印加電圧波形は交流ランプ電圧で、設定した印加電圧までの高電界誘電特性の測定を秒間で行うことが可能である。試料厚さ方向の誘電特性の評価に対してはくし形電極系の間隔を変えたものを用意して、表面近傍から内部までの誘電特性の評価を可能とする。現在は1, 2, 4 mmの電極系を有している。

3.実験結果及び検討

筆者らの考案した交流損失電流の測定方法は、誘電性試料へ交流電界を印加したときに流れる極少量の損失電流を大きな容量性の電流から分離して測定する。分離は電流比較型のブリッジを用いてその容量成分のみの同調をとり、平衡状態検出用の増幅器の出力に現れる損失成分(場合により容量成分を含む)に対応した不平衡成分を検出し、測定系全体の伝達関数を考慮して、tanδなどの誘電特性を評価するものであ。今回の表面接触電極を用いた試料厚さ方向の分解能を有する高電界誘電特性測定においては、電極間の漏れ電気力線に対応した信号を解析しようとするため、測定自体はフィルム状試料の厚さ方向の測定に比べて極めて困難となる。しかしながら容量成分の変化も損失電流とともに解析可能とすれば、試料の吸水状態などを試料表面から観測可能電気的計測手法となるものと期待される。

くし形電極系を用いた測定で容量成分の同調をとった後、ブリッジの容量ダイヤルを増減させて検出波形の解析を行った。解析結果の一例を図2に示す。図2の同調容量は、くし形電極間の空気部分の容量と電極下部の誘電体中への漏れ容量と試料の容量のすべてを含めて、9.63 pFであった。同調をずらして、9.53, 8.63 pFと見かけ上容量を小さくバランスさせると容量電流成分の不平衡分は増加し、逆に9.73, 10.63 pFと大きくバランスさせるとマイナスの容量電流(印加電圧より90度遅れた電流)が観測された。ランプ波の最大印加電圧の大きさは2000 Vp-pであり、電極間隔は2 mmなので、電極間隔で割った最大印加電界は2/(2x1.414x2)=0.35 kV/mmである。容量の不平衡分1 pFに流れる電流はIxc =ωCV= 2x3.14x50x(1E-12)x2000/(2x1.414) = 0.22 μAとなり、図2の測定結果と良い一致を示している。

新電極系を用いた交流損失電流の解析における注意事項として、主電極とガード電極間に静電容量が存在し、かつ、主電極・ガード電極間に電位差が生ずる場合には試料への印加電界と逆方向の「負の損失電流流れることを報告してきた(2)。今回の接触電極系の場合も、そのような測定結果を解析可能とするようFFT波形解析プログラムを改良した検出波形が30度ずつ位相をずらしていったとして、模擬的検出波形データを作成し、FFT波形解析した結果を図3に示す。損失電流・容量電流各々の正負に関わらず全ての位相の検出波形データに対して解析可能であることがわかる。

参考文献

 

(1) 所 :科学研究費研究成果報告書,086503561999

(2) 所 他:平成9年電気学会全国大会 3101997


             高電圧電極

               

 

              

                

               

               主電極

 

 

図1 くし形表面接触電極系                       図2 容量不平衡時の検出電流          図3 IxrIxcの解析結果

(電極幅・間隔 2mm)                          Ixc成分)                                (検出波形の振幅一定で位相が変化)

Fig.1. Surface contact electrodes.               Fig.2. Unbalanced capacitive current.               Fig.3. Ixr and DIxc of detected current.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   実験には公称厚さ30mmの二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムを用い,電極としてAuを真空蒸着した。電極系は拡張ガード電極付き3端子電極系とし,部分放電を抑制するためにエポキシ樹脂でモールドした。

実験のはじめにこの試料の充電電流成分(Ixc)を除去することを目的として,50kVrms/mm電流比較型ブリッジの同調をとり,試料の静電容量を決定した。その後室温では最大で200kVrms/mm120℃では最大で70kVrms/mmとなる交流ランプ電圧を印加して出力信号を検出した。この検出信号をFFT波形解析することにより交流損失電流(Ixr充電電流の不平衡成分(Ixctanδを求めた。

 3.実験結果と検討   図1にtanδの温度特性を示す。室温領域ではtanδが緩やかな電界依存性を示しているのに対し高温領域になるとtanδは電界の上昇と共に急激に増加した。これは次式(1)で説明されており高温領域ではσxが支配的となるためである(3)

                                                                                                                                                                                                                                                    tanδ=tanδPF+σx/ωε   ・・・(1)

 図2に充電電流の不平衡成分(Ixc)の温度特性を示す。室温では電界が50kVrms/mmをこえるとIxcが増加し始めておりこの電界をしきい値として電極からのキャリア注入が増加したと考えられる。また電界のしきい値は高温になるにしたがい低電界側に下がりIxcは電界の上昇と共に急激に増加した。

 筆者らは室温において電界しきい値となる電界80kVrms/mmと報告したものもあるが(2)この電界は電極と試料界面の状態に依存するため変動することが考えられる。また高温領域になると室温領域よりも低い電界からキャリア注入が始まり同じ電界で比較するとその注入量も室温領域より増加する多いと思われる。Ixcの変化から電界印加中の静電容量を算出し電極界面に形成される空間電荷層を試算した結果(4)室温では200kVrms/mmにおいて???0.17μm120℃では70kVrms/mmにおいて???0.30μmという値が得られた。

図1 tanδの温度特性

 

図2 充電電流の不平衡成分(Ixc)の温度特性

 

参考文献

 

(1) 所他 :平成6年電気学会全国大会 S.5-71994

(2) 藤井他:電気学会A部門大会 #1571999

(3) 所他 :電学論A 1106号 pp372-3781990

(4) 坂本他:電学論A 9510号 pp439-4461975岐阜高専

Effect of Space Charge on Dissipation Current WaveformSComputer Analysis of Space Charge Formation in Polymer Filmtudy on the Increment of Charging Current in AC High-Field Region near Breakdown

 

Masayuki Fujii, Member (Oshima National College of Maritime Technology), Kazuyuki Tohyama, Member (Numazu College of Technology), Tetsuro Tokoro, Member (Gifu National College of Technology),  Yuji Muramoto, Member  (Toyohashi University of Technology),

Naohiro Hozumi (Toyohashi University of Technology),

Masayuki Nagao, Member  (Toyohashi University of Technology), Masamitsu Kosaki, Member (Gifu National College of Technology)

 


 1.まえがき

高分子材料は優れた誘電・絶縁特性を有しているが,交流高電界領域におけるそれらの特性については未知な部分が多い。交流高電界下で高分子材料中を流れる交流損失電流には高電界誘電特性に関する様々な情報が含まれていると考えられ,近年この交流損失電流から高電界誘電特性を評価する手法が確立されてきた(1)

筆者らはこれまでにポリプロピレン(PP)フィルム室温高電界誘電特性について調査してきた。その結果、特に絶縁破壊に至る過程で充電電流の不平衡成分の増加からキャリア注入による空間電荷形成の可能性が示唆され

今回はポリプロピレン(PP)フィルムの高温高電界領域で形成される空間電荷について検討したので報告するそれらの特性にどのような変化が起こっているかは,劣化診断や絶縁破壊予知とも関係しており非常に重要である。交流高電圧印加時電界下高分子材料中を流れる交流損失電流には高電界誘電特性に関する様々な情報が含まれており,近年この交流損失電流から高電界誘電特性を評価する手法が確立されてきた(1),(2)

今回は絶縁破壊に近い交流高電界領域で試料を流れる充電電流成分が急激に増加する原因として電極界面に形成されると思われる空間電荷の影響についてが交流損失電流波形に与える影響について検討考察したので報告する。

 2.試料および試料と実験方法方法

実験には供試フィルムには公称厚さ3030mμmの二軸延伸ポリプロピレン(LDPE)フィルムを用い,電極としてAuを真空蒸着した。電極系は試料は拡張ガード電極付き図1に示す3端子電極系とし,部分放電を抑制するためにエポキシ樹脂でモールドした後,室温で硬化した

 

実験のはじめにこの試料に流れる充電電流成分)を除去することを目的として,5050kVrms/mmCCBブリッジの同調をった後試料の静電容量を決定した。その後、室温ではった。この状態(Cは347.8pF)をBAとし,この後,最大で15020150kVrms/mm120では最大で70kVrms/mmとなる交流ランプ電圧を印加して出力信号を波形検出した。さらに,CCBブリッジのCダイヤルを同調時から故意に約0.1%大きくずらした状態(Cは348.2pF)をU,約0.1%小さくずらした状態(Cは347.2pF)をDとして同様に交流ランプ電圧を印加して波形を検出した。これらの検出波形信号をFFT波形解析することにより、交流損失電流(Ixr)、充電電流の不平衡成分(Ixctanδを求めた。,誘電正接(tandδ),交流損失電流(IXR),充電電流成分成分の非平衡分(凾hXC)などを求めた。

 

 3.実験結果実験結果考察検討

図1にtanδの温度特性を示す。室温では緩やかな電界依存性を示しているが、高温になるにしたがいtanδは低電界から急激に増加している。これは次式(1)で説明されており、高温領域ではσxが支配的となるためである。

   tanδ=tanδPF+σx/ω    ・・・(1)

 図2充電電流の不平衡成分Ixcの温度特性を示。室温では電界が50kVrms/mmこえるとIxcが増加し始めており、この電界をしきい値として電極からのキャリア注入が増加と考えられる。また、電界のしきい値は高温になるにしたがい低電界側に下がり、Ixcは急激に増加ることが分かった。

 筆者らは室温においてしきい値となる電界を80kVrms/mmと報告したものもあるが、この電界は電極と試料界面の状態に依存するため、ばらつくことが考えられる。また、高温になると室温よりも低い電界からキャリア注入が始まり、その注入量も室温より多いと思われる。Ixc変化から電界印加中の静電容量を算出し、空間電荷層を試算した結果電極界面に室温では???μm120℃では???μmの空間電荷層が形成された可能性が示唆された

 

 図2は状態BAにおける交流損失電流波形の電界依存性を示している表している比較的低い電界領域では正弦波となっているのに対し絶縁破壊に近い電界領域になると半周期の前半にピークが現れる波形に歪み,位相がやややや進んでくる。また,図3は交流損失電流(IXR充電電流成分の非平衡分(凾hXCの電界依存性を表しているCCBブリッジの状態の違いによる交流損失電流波形の比較を示している凾hXC 状態Uは電界がでは80kVrms/mmを超えると位相急激に増加することが分かる遅れているのに対し,状態Dでは位相が進んでいる

高電界領域で位相がやや進むのは,試料の静電容量充電電流成分が同調時に比べて増加しているめであることが分かったこのことから、

高電界領域で静電容量充電電流成分が増加するのは電極からキャリヤの注入が増加し,電極界面にホモ空間電荷層が形成されることに形成されることによって,空間電荷分極が寄与した起因している考えられていてい思われここで電極界面に形成された空間電荷層が非常に高い導電率を持っているにより実効的に試料厚さが減少したと仮定した場合形成される空間電荷層は試料厚さの減少分は30μmに対して0.03μm程度であると試算でき交流高電界下で形成される空間電荷は電極界面近くの非常に薄い領域であることが推測できる

 

 

         参考文献         

(1) 所他 :平成6年電気学会全国大会 S.5-71994

(2) 遠山他:電学論A 11612号 pp1101-11061996

 

 

図1 tanδの温度特性

電極系

図2 充電電流の不平衡成分(Ixc)の温度特性交流損失電流波形の電界依存性(状態BA

 

図3 CCBブリッジの各状態における交流損失電流波形    の比較図3 交流損失電流(IXR)と充電電流成分の非平衡分

   (凾hXC)の電界依存性

         参考文献         

(1) 所他 :平成6年電気学会全国大会 S.5-71994

(2) 遠山他:電学論A 11612号 pp1101-11061996

(3) 福間他:電学論A 1143号 pp230-2351994

(4) 藤井他:電気学会A部門大会 #1571999

(5) 村田他:電学論A 11612号 pp1095-11001996