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3.3 シナプス結合

シナプスにおいては、出力側細胞(シナプス前細胞)の軸索末端がボタン状に膨らんで、入力側細胞(シナプス後細胞)の樹状突起ないし細胞体に、非常に薄い間隔をもって付着している。 シナプス前細胞が興奮し、インパルスが軸索末端まで伝えられると、末端から神経伝達物質とよばれる化学物質が放出される。 伝達物質は、シナプス後細胞の細胞膜上のイオンチャネルに作用して、そのイオン透過性を変化させるため、イオンが細胞膜を通過し、その結果、膜電位の変化が引き起こされる。 [2]

シナプス後細胞には多数のシナプスを介して入力が加えられ、その結果引き起こされるイオン透過性の変化の総和が、シナプス後細胞の活動を決定する。 すなわち、イオン透過性の変化によってシナプス後細胞の膜電位が閾値を越えれば、シナプス後細胞は興奮し、さらに先の細胞へ信号が伝達されていく。

以上で説明したように、一般のシナプスでは、電気信号が直接伝わるのではなく、伝達物質を介して情報伝達が行なわれる。 このように化学物質を介して信号を伝達するシナプスを、化学シナプスという。 化学シナプスでは信号伝達において、 1ms 程度の遅延が生じる。

また、シナプスには、シナプス後細胞を興奮しやすくさせ、伝達物質を放出する興奮性シナプスと、シナプス後細胞を興奮しにくくさせ、伝達物質を放出する抑制性シナプスとがある。 さらに抑制には、興奮性シナプスから放出される伝達物質の量を抑えることにより抑制をかけるシナプス前抑制があり、神経回路網において重要な働きを担っていると考えられている。 一般に、一つの神経細胞の軸索末端のシナプスは全て興奮性シナプスか抑制性シナプスのどちらかである。 逆に、信号を受け取る細胞は興奮性、または抑制性のどちらのシナプスを介しても入力を受け取ることができる。 神経回路網における信号伝達においては、信号が正(興奮性)に伝わるか負(抑制性)に伝わるかは、信号を出力する側の細胞によって決まり、受けとる側の細胞では、それぞれの細胞からの刺激の総和を入力として受けとると考えられる。

ところで、動物は生後の体験により学習し、記憶することができるが、記憶された情報がどこにどのような形で蓄えられているのかということは、昔から大きな疑問であった。 この記憶が、神経系において実現されているということは、まず間違いないと考えられるが、さらに、神経系のどの部分に情報が蓄えられているかという問いに対する一つの解答が、神経回路網における記憶をシナプスの変化に求める``シナプスの可塑性''説である。 この仮説自体は19世紀から唱えられてきたものだが、最近になって、いくつかの種類の神経細胞についてシナプスの可塑性を認める報告が生理学者によってなされている。 なお、神経回路網の変化は、シナプスだけでなく、神経線維の接続の変化や細胞の代替などさまざまなかたちで起こっており、それらの詳細については、ほとんど分かっていないのが現状である。



Deguchi Toshinori
1996年10月08日 (火) 12時41分40秒 JST