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4.1 連想記憶とは

人間は、複数の文字を覚えている状態で、形の崩れた文字を見せたとき、 その文字が何であるのか、記憶しているものから最も近いものを答える。 このように、入力から前もって覚えているパターンを思い出すことを連想記憶という。

   figure140
図 4.1: 連想記憶をする神経回路網の構造

ニューラルネットワークにおける連想記憶とは、一般につぎのようなものである。 図4.1の様に1つのニューロンに入力 tex2html_wrap_inline1313 を全結合させる。 入力パターンを tex2html_wrap_inline1385 、 出力パターンを tex2html_wrap_inline1387 とする。 なお、n はパターンの要素の数であり、要素は全て1と -1 の2値で表される。 P を覚えるパターンの数とし、入力と出力の組 tex2html_wrap_inline1395 を記憶させることを考える。 具体的には、まず i 番目の入力から j 番目の細胞へのシナプス荷重 tex2html_wrap_inline1285 を全て0にする。 入力と出力の組を与えるとき、以下の学習則に従ってシナプス荷重を更新する。

  equation158

ただし、閾値 tex2html_wrap_inline1403 は 0 とする。これをベクトルで表せば次式となる。

  equation164

これは、入力 x を受けて出力

  equation173

を出す神経細胞で、情報源 I から信号 tex2html_wrap_inline1415 と教師信号 tex2html_wrap_inline1291 を受けて学習する場合である。 シナプス荷重 tex2html_wrap_inline1419 の方程式は式(3.5)より

  equation181

で、I の中では信号は等確率で出現するため、平均学習方程式は

   eqnarray187

で、シナプス荷重は

  equation199

に収束する。これをベクトル全体で考えるには tex2html_wrap_inline1291 を縦に並べたベクトルを y とし、横ベクトル tex2html_wrap_inline1419 を縦に並べたものを行列 W とすれば 式(4.2)となる。 また、これはニューロンが同じ状態にあった場合 tex2html_wrap_inline1451 はシナプス荷重が増加し、 そうでない場合にはシナプス荷重が減少するというHebbの変形学習則そのものである。このようにして学習し、その後、入力 x を与えたときの 出力 y

  eqnarray212

となる。 入力 x が学習したパターンの1つである tex2html_wrap_inline1469 の場合、 tex2html_wrap_inline1471 が互いに直交していれば、式(4.8)で tex2html_wrap_inline1473 は0となるので、 tex2html_wrap_inline1475 となり、 これを単位ステップ関数にいれて2値化すれば tex2html_wrap_inline1477 となるため、 学習した入力に対応したパターンを正しく想起していることが分かる。

xtex2html_wrap_inline1469 に近いパターン tex2html_wrap_inline1483 の場合、 tex2html_wrap_inline1471 が互いに直交していれば tex2html_wrap_inline1487tex2html_wrap_inline1489 に非常に近い。 一方、 tex2html_wrap_inline1491tex2html_wrap_inline1471 とは直交に近い関係にあるのでこれらの項は小さい。 これが十分小さければ、単位ステップ関数で無視され、 tex2html_wrap_inline1495 もしくは tex2html_wrap_inline1495 に近いパターンが出力される。

また、ニューラルネットワークにおける連想記憶の特徴はつぎのような点である [3]。

  1. 1つの入出力パターンの組を記憶するとき、その情報はニューラルネットワークのシナプス全体に分散して記憶される。 また、複数の入出力パターンの組を記憶する際には、それぞれの入出力パターンの情報は重なって記憶される。 したがって、ニューラルネットワークが局所的に故障しても1つの入出力パターンの組が全て記憶から失われることはない。
  2. 記憶するパターンの組が増しても、そのうちの1つの入力パターンから、 対応する出力パターンを取り出すために各ニューロンが必要とする動作は増えない。
  3. ニューロンに閾値作用をもたせた場合、あいまいな入力パターンから正しい出力パターンを想起する能力をもつことができる。


Deguchi Toshinori
1996年10月29日 (火) 11時21分05秒 JST