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第1章 序論

ニューロコンピュータは現在主流の電子式ディジタルコンピュータ と同様1940年代に誕生した。1943年にマッカロとピッツによって 神経細胞のモデルが提案され彼らはそれらを多数つないだ回路網の 振舞いを検討した。これが神経回路を機能面からとらえた 最初の研究である。1949年にはヘッブのシナプス強化法則が発表され、 1950年代の終りにはローゼンブラットにより機械パーセプトロンが 作られた。このように発案当初はその画期的な動作から多くの研究者の 注目を集めていた。 しかし1970年代にパーセプトロンの理論を展開していたミンスキーと パパートは研究の結果、これに対して否定的な結論に達した。 そこでこれ以上の発展はないと見極め、若い研究者がパーセプトロンの 研究に群がるのを防ごうとしたといわれている。 こうして彼らによってその限界が論ぜられたことで一度研究は下火となった。

一方、現在主流の電子式ディジタルコンピュータは チューリングやノイマンによって確立された アルゴリズム原理に基づくプログラム内蔵式直列逐次処理という 明解な情報処理原理と、半導体技術の著しい進歩による ディジタル電子回路の高集積化、高速化、低価格化に支えられて、 その後めざましく成長した。そして、いまや記号処理技術に 基づく人工知能(AI)により、推論や自然言語処理といった、 人間の高度な情報処理機能をも実現しつつある。

しかし近年パターン認識、理解やあいまいなデータや 概念の取り扱い、知識の自動獲得や学習などの処理における 困難さが広く認識されるようになってきた。 このような脳には容易でディジタルコンピュータには 難しい情報処理を実現するためニューロコンピュータ が近年再び注目を集めることになった。

ニューロコンピュータとは主にニューラルネットワークのことを指している。 ニューラルネットの基本的な目標は、生物の神経系のような複雑なシステムを、 比較的単純な素子の集団としてモデル化し、それによるさまざまな 情報処理の可能性を、数学的解析と計算機シミュレーションにより 明らかにしようというものである。そしてその研究は常に、 人間の脳のように柔軟かつ高性能なコンピュータをつくりたい という欲求に支えられ発展してきた。 現在マッカロとピッツにより提案された最も単純で代表的な ニューロンモデルを用いたネットワークが主流となっている。

本研究ではこのニューラルネットワークに、 生体システムにおいて観測される非線形ダイナミクスである カオスという現象を学習させる。 また、その応用として2つの差分方程式を1つのニューラルネットに 学習させるため、本研究室の提案する内部記憶を有する ネットワークを用いた学習を行なう。 具体的な方法としては階層型ニューラルネットワークの 離散時間モデルに、バックプロパゲーションという学習法を用いて カオスアトラクタを学習させるプログラムを作成し、 その学習結果から学習の効果について検討する。

本論文では、まず研究対象であるニューロンと ニューラルネットワーク(第2章)、 学習対象であるカオスアトラクタ(第3章)、 学習法として実際に用いたバックプロパゲーションという方法(第4章) について説明を行なう。 そして実際にカオスアトラクタの学習を行ない、 その結果を示し学習効果について考察を行なう(第5章)。 最後にまとめとして結言を記す(第6章)。 また、巻末には実際に実験で用いたプログラムのソースを掲載する。



Deguchi Toshinori
Wed Jul 12 17:04:26 JST 2000