実際の神経細胞は容易にカオスを生成し、その応答は非周期的であるにもかかわらず、 従来のニューロンのモデルの応答は、ほとんど全て周期的である。 これは,従来考慮していなかった神経細胞の何らかの特徴が、 カオスの生成に寄与していることを示している。
従来のニューロンのモデルの出力は、 全か無かの法則(階段関数)で与えられていたが、 実際の神経細胞において空間固定の条件で注意深い実験を行うと、 神経膜の活動電位生成過程は厳密には全か無かの法則には従わず、 図3.3のシグモイド関数のように、 急峻ではあるが連続的に応答の大きさが変化する、 「ファジー」な活動電位特性を有することが分かる。 そして、ニューロンのカオスを生成する軌道不安定性は, この連続的なしきいセパラトリクスに起因する。 すなわち、ニューロンのカオスは全か無かの法則の不成立ゆえに成立するのである[1]。
合原らは Caianiello-Sato-Nagumo モデルの出力関数を連続関数に変更したカオスニューロンモデルを提案している[1]。このモデルは次式によって定義されている。
ここで x(t+1) は時刻 t+1 におけるニューロンの出力、 A(t) は時刻 t における入力の大きさ、 は不応性の項に対するスケーリングファクタ (
) 、 k は不応性の定数
、 g は軸索伝搬定数である。
関数fはニューロンの内部状態 u と出力 x(t+1) との関係を与える出力関数で、図3.3のシグモイド関数である式(3.3)で与えられる。