実際の神経細胞は容易にカオスを生成し、その応答は非周期的であるにもかかわらず、従来のニューロンのモデルの応答は、ほとんど全て周期的である。これは,従来考慮していなかった神経細胞の何らかの特徴が、カオスの生成に寄与していることを示している。
従来のニューロンモデルは、1か、0による全か無かの法則(階段関数)で与えられていたが、実際の神経細胞において空間固定の条件で注意深い実験を行うと、神経膜の活動電位生成過程は厳密には全か無かの法則には従わず、図 のシグモイド関数のように急峻ではあるが連続的に応答の大きさが変化する「ファジー」な活動電位特性を有することが分かる。そして、ニューロンのカオスを生成する軌道不安定性は、この連続的なしきいセパラトリクスに起因する。すなわち、ニューロンのカオスは全か無かの法則の不成立ゆえに成立するのである。[4]
合原らはCaianiello-Sato-Nagumoモデルの出力関数を連続関数に変更したカオスニューロンモデルを提案している。このモデルは次式によって定義されている。
x(t+1) :時刻t+1におけるニューロンの出力
A(t) :時刻tのおける外部入力の大きさ
:不応性の項に対するスケーリングファクタ(
)
k :不応性の定数
g :軸索伝搬定数
関数fはニューロンの内部状態uと出力x(t+1)との関係を与える出力関数で、図3.3のシグモイド関数、式(3.3)で与えられる。