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バックプロパゲーション [1]

今度はいくつかの中間層を持つ階層型のネットワークを考える。 同じ層の素子間に結合はなく、 どの素子も1つ前の層からのみ入力を受け、 次の層へのみ出力を送るものとする。 このようなネットワークの中間層に対して学習則を導くとき、 式 4.8 $\partial E / \partial y_j$ (学習信号)の値は すぐには求めることが出来ない。 そのため、この学習信号を出力層から逆向きに順々に計算していく。 すなわち出力の誤差を前の層へ、前の層へと伝えていく。 これがバックプロパゲーションの考え方である。 よって、 ある層の素子 $j$ $\partial E / \partial y_j$ の計算は、 次の層の素子 $k$ $\partial E/\partial y_k$ を用いて
$\displaystyle \frac{\partial E}{\partial y_j}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_k \frac{\partial E}
{\partial y_k} \cdot \frac{dy_k}{du_k} \cdot \frac{\partial u_k}{\partial y_j}$ (4.12)
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\sum_k \delta_k \cdot \frac{\partial u_k}{\partial y_j}$ (4.13)

と展開することができる。 式 4.1より
\begin{displaymath}
\frac{\partial u_k}{\partial y_j} = w_{kj}
\end{displaymath} (4.14)

となる。そして、これと式 4.7を 代入すれば式 4.13
\begin{displaymath}
\frac{\partial E}{\partial y_j} = -\sum_k \delta_k w_{kj}
\end{displaymath} (4.15)

となる。 これがバックプロパゲーションのアルゴリズムである。

バックプロパゲーションは、いかなる重みの初期値からでも誤差が極小となる (最小ではない)ことが保証されるわけだが、一般に誤差曲面は 極小値の近くでは非常に緩やかな谷底をもつため、学習は非常に遅くなる。 しかし、式 4.3$\eta$ を大きくすると、学習は振動してしまう。 振動させずに学習を早めるため幾つかの方法が提案されているが、例えば、 誤差曲面の傾きを結合荷重空間の位置でなく速度の変化に用いる。 即ち、

$\displaystyle \Delta w_{ji}(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\eta \frac{\partial E}{\partial w_{ji}} + \alpha \Delta w_
{ji}(t-1)$ (4.16)
  $\textstyle =$ $\displaystyle \eta \delta_j y_i + \alpha \Delta w_{ji}(t-1)   (0<\alpha<1)$ (4.17)

という形の加速法がよく使われる。 ここで$\alpha$は安定化定数であり、$t$は学習の回数を表わす。 また、重みが最初、すべて0であると、中間層の素子に個性が現れず、 中間層を用いる意味がなくなってしまう。 この対称性を破るために、重みに小さなランダム値を与えることが必要である。

図 4.1 に バックプロパゲーション法のネットワーク図を示す。 バックプロパゲーションの特徴としては、

図 4.1: バックプロパゲーション(誤差逆伝搬法)
\includegraphics[scale=0.7]{fig/backpropagation.eps}

  1. 入力信号と正確な出力教師信号のセットを次々と与えるだけで、 個々の問題の特徴を抽出する内部構造が、 中間層の隠れニューロン群のシナプス結合として自己組織化される。

  2. 誤差計算が出力方向への情報の流れと類似している。
ということが挙げられる。 すなわち、ある素子の学習に使われている情報は、 後の素子から得られる情報のみであり、学習の局所性が保たれていることになる。 この学習の局所性は、人工的な神経回路型計算機をハードウェア化する時の 学習則に要求される性質である。実際の生体における神経回路においては、 $\partial E / \partial y_j$ といった学習信号が神経軸索を通って逆向きに伝わることはなく、 バックプロパゲーションは実際の脳の学習則の生理学的モデルには なりえないことになる。 実際の脳の多層神経回路において、どのような学習則が用いられているのかは 今だ解明されていない。



Deguchi Lab. 2012年3月9日