図 5.1 のように, があるとき,
これから連想されるものをそれぞれ
とする。
例えば,X から連想されるものを知りたい場合,この X と
を
順に比較する。そして,
であれば,
が目的のものとわかる。
しかし,この方法では,X と等しいものがなかったり,
の記憶が破壊された場合は,出力を得ることができない。
また,n が大きくなるにつれ,比較する平均回数が増えるので,
検索時間も増加する。
そこで,これらの欠点を考慮した,ニューラルネットによる連想記憶について述べる。
連想記憶モデルは 1970 年代の始めに Nakano(1972),Kohonen(1972),Anderson(1972) の 3 者によって同時期に,しかも独立に提案された。 3 者のモデルにはそれぞれ特色があるが,ここでは,特定のモデルに偏らずに, 3 者のモデルに共通するような基本原理について説明する[12]。
ニューラルネットにおける連想記憶とは,一般に次のようなものである。 図 5.2 のように, N 個のニューロンに M 本の入力信号が加えられているニューラルネットを考える。
入力パターン
(
:入力信号 j がとる値)と出力パターン
(想起パターン)
(
:ニューロン
i の出力信号がとる値)の組が複数個
あって,
上記の P 個の入力パターンの内の一つをニューラルネットワークに入力した時に,
対応する出力パターン(つまり入力パターン
に対しては
出力パターン
)を出力するように,
上記の入出力パターンを記憶することを連想記憶という。
また,連想記憶が学習する過程を記銘過程と呼び,神経回路網が入力パターンを
与えられることによって,何らかの出力をする過程を想起過程と呼ぶ。
記銘する入力パターンと出力パターンとが一致\
している
連想記憶のことを自己相関記憶,異なる連想記憶のことを相互相関記憶とよぶ。
自己相関記憶では,入力パターンと出力パターンとの組を複数個記憶するのでなく,
単純に復数個のパターンを記憶することになる。
自己相関記憶は次のような意味をもつ。いくつかのパターンを記憶した後,
どのパターンとも正確には一致しないが,
どれかのパターン と最も近い入力
をニューラルネットワークに与えるとする。
そのとき
そのものを出力すれば,
パターン
からパターン
を
「連想」したことになる。
このことを人間の脳の機能にあてはめると,例えば,
複数の文字の形を覚えている状態で,
形の崩れた文字を見せたときに,その文字がなんであるのか,
記憶しているものから最も近いものを答えることに相当する。
本節の最初に述べたように,従来の方法では対処できない点がいくつかあった。 しかし,ニューラルネットワークにおける連想記憶では, 次のような特長を持っているので,この点を解消することができる。
以上の特長について,従来の方法と比較しながら説明する。(1) は,記憶する複数の入出力パターンの組の情報がそれぞれ, ニューラルネットワークのシナプス全体に分散され, 各々の情報が重なって記憶されることを意味する。 そのため,ニューラルネットワークが局所的に壊れても,従来の方法のように, 一つの入出力パターンの組がまるごと記憶から失われることはない。
(2) は,(1) のようにシナプス全体に重なって 記憶されるために,記憶するパターンの組の数が増えても, 従来の方法で比較する回数が増えるように, 出力パターンを取り出すまでの動作は増えない。
(3) は,曖昧な入力パターンから正しい出力パターンを想起する能力の
ことである。
これは,ニューロンにしきい値作用を持たせた場合に持つ能力である。
自己相関記憶のところでも説明したように,入力したパターン
に近いパターン
が連想する
出力パターン
を想起する。
従来の方法では,近いパターンでも違うパターンとみなされるので,
出力が得られない。