まず,例として鳥の形をしたアトラクタについて説明する[7]。
以下に示す式 (2.1) のような二つの差分方程式により,
図 2.1 のような図形が得られる。
初期点は とする。
この式の特徴は, 羽根状図形の近くに,初期値をどのように選んでも, 最終的にはこの図形に収束し, 得られる図形は同じものになる。 このように最初に出発する点に依存せず, 点列が同じ集合に吸い込まれて動く場合に できる集合のことを,アトラクタと呼んでいる。 この図 2.1 のアトラクタは まだその性質が良く分かっていないことと 形が奇妙なことからストレンジ・アトラクタとも呼ばれている。
このように単純な二つの式から複雑な図形を描くことができる。 つまり,カオスを用いることにより単純な式で複雑な事柄を表すことができる。
また,もう一つのカオスの特徴は,入力値が少しでも異なると, その振舞いが大きく変わることである。 例として,式 (2.2) ,図 2.2 のような出力値がそのまま 次の入力値になるような系を考える。
この式を用いて,実際に繰り返し計算をし,繰り返し回数 n と n 回目の出力
の関係を調べると,図 2.3 のように複雑な振舞いをしている。
よってこの系は,カオスである。
また,この図の (a),(b) ように初期値 をそれぞれ 0.300000,
0.300001 と,わずか百万分の一だけ異なっている値を使って計算し比較すると,
n が 15 以上では全く違った挙動となっている。
このようにカオスでは,初期値のわずかな誤差でも系の状態変化に,
大きな影響を及ぼすことが示される。