いくつかの中間層を持つ多層ニューラルネットワークを考える。
同じ層の素子間に結合はなく、
どの素子も1つ前の層からのみ入力を受け、
次の層へのみ出力を送るものとする。
このようなネットワークの中間層に対して同様に学習則を導こうとしたとき、
式(4.8)の の値は
すぐに求めることはできない。この微分値を出力層より
逆向きに順々に計算していく、言い換えれば出力の誤差を、
前の層へ、前の層へと伝えていく、
というのがバックプロパゲーションのアイデアである。
すなわち、
ある層の素子 j の
の計算は、
次の層の素子 k の
を用いて
と展開することができる。 式(4.1)より
となる。 これがバックプロパゲーションのアルゴリズムである。
バックプロパゲーションは、
いかなる重みの初期値からでも誤差が極小となる(最小ではない)
ことが保証されるわけだが、一般に誤差曲面は極小値の近くでは
非常に緩やかな谷底をもつため、学習は非常に遅くなる。
しかし、式(4.4)の を大きくすると、
学習は振動してしまう。振動させずに学習を早めるため
幾つかの方法が提案されているが、例えば、
誤差曲面の傾きを結合荷重空間の位置でなく速度の変化に用いる、
すなわち
という形の加速法がよく使われる。 ここで t は学習の回数を表わす。 また、重みが最初、すべて0であると、中間層の素子に個性が現れず、 中間層を用いる意味がなくなってしまう。 この対称性を破るためには、重みに小さなランダム値を与えておけばよい。
図4.1に
バックプロパゲーション法のネットワーク図を示す。
バックプロパゲーションの特徴は、入力信号と
正しい出力教師信号のセットを次々と与えるだけで、
個々の問題の特徴を抽出する内部構造が、
中間層の隠れニューロン群のシナプス結合として自己組織される点である。
また、誤差計算が前方向へ情報の流れとよく類似している点がある。
すなわち、ある素子の学習に使われている情報は、
後の素子から得られる情報のみであり、
学習の局所性が保たれていることになる。
これは、人工的な神経回路形計算機をハードウェア化する時に
学習則に要求される性質で、実際の生体の神経回路においては、
といった値が
神経軸策を通って逆向きに伝わるはずはなく、
バックプロパゲーションは実際の脳の学習則の
生理学的モデルにはなりえないことになる。
実際の脳の多層神経回路においてはどのような
学習則が用いられているのかはまだわかっていない[6]。