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リアプノフの安定性理論

前節までは線形システムに限った安定性について述べた.本節では一般の非線形システムにも適用できるリアプノフの安定性理論について説明する.この理論は,次節以下での展開の基礎にもなっている.

非線形自律システム

\begin{displaymath}
\dot{x} = f(x)
\end{displaymath} (17.1)

が与えられたとする.ここで$x$$n$次元状態ベクトル,$f(x)$$x$の非線形関数である.以下ではこのシステムの平衡点,すなわち

\begin{displaymath}
f(x_s)=0
\end{displaymath}

を満足する状態点$x_s$の安定性について考えるのであるが,$x_s=0$,すなわち平衡点が原点であるとしても一般性を失わない.なぜなら$x_s \neq 0$の場合には,$\bar{x}=x-x_s$として(17.1)式を書き改めれば

\begin{displaymath}
\dot{\bar{x}}=f(\bar{x})
\end{displaymath}

となり,上式の平衡点は $\bar{x}_s = x_s-x_s=0$,すなわち原点となるからである. なお(17.1)式は,一般の非線形システム


で入力を$0$とおいたもの,あるいは,何らかの状態フィードバック$u=k(x)$を施して入力の影響を取り除いたシステムであると考えることができる点に注意する.

システム(17.1)の原点$0$の安定性を,次のように定義する(図5.4参照).

  1. 任意に与えられた $\varepsilon > 0$に対して適当な $\delta(\varepsilon)>0$が存在し,時刻$0$ $\Vert x(0)\Vert < \delta(\varepsilon)$を満たす任意の初期点$x(0)$から出発した(17.1)式の解$x(t)$が,それ以後すべての時刻$t \geq 0$において $\Vert x(t) \Vert < \varepsilon$を満たすならば,原点$0$は安定であるという.
  2. 原点が安定で,かつ適当な$\delta'$が存在して, $\Vert x(0)\Vert<\delta'$を満たす任意の$x(0)$から出発した解のノルム$\Vert x(t)\Vert$が,時間の無限の経過と共に$0$に収束するならば,すなわち$t \to \infty$のとき $\Vert x(t)\Vert \to 0$ならば,原点$0$は漸近安定であるという.

たとえば,図5.5に示すように,曲面上を下向きの重力を受けた球がころがるとき$A$は安定(摩擦なしのため底点に近いところで振動し続ける),$B$は漸近安定(粘性摩擦のため時間無限大では底点に静止),$C_1,C_2$の平衡点は安定ではない(初期点が多少でもずれると移動してしまう).

以下ではこのような意味での安定性を判別するための方法を示す. そのため,まず$x$の正定関数という概念を説明する.

原点を含むある領域$\Omega$で定義されたあるスカラ関数$V(x)$$V(0)=0$で,かつ$x \neq 0$なる任意の$x \in \Omega$に対して$V(x) > 0$(または$V(x) \geq 0$)を満たすとき,$V(x)$$\Omega$で正定(または準正定)であるという.また,$-V(x)$が正定(または準正定)であるとき,$V(x)$は負定(または準負定)であるという.

いま,あるスカラ関数$V(x)$が,原点を含むある領域$\Omega$で正定で,かつシステム(17.1)の解$x$の軌道に沿っての時間微分


が準負定であるとき,この関数をリアプノフ関数と呼ぶ.このとき次の定理が成り立つ.  

定理5.5(リアプノフの安定定理) システム(17.1)の原点が安定であるための1つの十分条件は

1. リアプノフ関数$V(x)$が存在する

を満たすことである.言い換えれば,システム(17.1)に対するリアプノフ関数を見つけることができれば,そのシステムの原点は安定である.また,原点が漸近安定であるための一つの十分条件は,条件1.および

2. 領域$\Omega$$\dot{V}(x)$が負定関数である.

を満たすことである.なお条件2.は

2'. 任意の$x(0) \neq 0$に対するシステム(17.1)の解$x(t)$$t \geq 0$において恒等的には $\dot{V}(x(t))=0$とならない.

で置き換えることができる.したがってシステム(17.1)に対するリアプノフ関数が存在し,かつ,条件2または2'を満たせば原点は漸近安定である.

 

定理の証明は省略するが,直感的な説明を与えることにする.リアプノフ関数を$n=2$の場合について概念的に図示すると,図5.6のようにおわん形をしていると考えられる. そして条件2.は,システムの$X_1,X_2$平面上の軌道$x(t)$に対応するおわん上の軌道 $\left[\begin{array}{cc}x^T(t) & V(x(t))\end{array}\right]^T$が,時間の経過と共に必ず下に向かって降りていくことを意味する. おわんの最低点は原点のみであるから,条件2.が満たされるとき,適当な原点の近傍が存在して,その中から出発した軌道は,時間の経過と共に必ず原点に収束する. すなわち,原点は漸近安定である.条件2'.は,図5.7に示すように,原点以外でおわん上の軌道が瞬間的に,またはある有限時間の間,水平方向に動くことがあっても,必ず再び下方向に降りていくことを意味する. したがって条件2'.が満たされるときも,原点は漸近安定であることになる.

なお,リアプノフ関数は一意とは限らず,1つの安定なシステムに対しても一般に多数存在する.またリアプノフ関数が見つからないからといってシステムが不安定というわけではない.

 

例5.5 1次元のシステム

\begin{displaymath}
\dot{x}=-x^3
\end{displaymath}

を考える.明らかに

\begin{displaymath}
-x^3=0
\end{displaymath}

を満たす点は原点であるから,このシステムの平衡点は原点である. したがって,原点の安定性を調べるためにリアプノフ関数の候補として

\begin{displaymath}
V(x) = x^2
\end{displaymath}

を取ると,この$V(x)$は,原点を含む任意の領域$\Omega$で定義され,$V(0)=0$かつ$x \neq 0$なる任意の$x \in \Omega$に対して$V(x) > 0$である($V(x)$は原点を含む任意領域$\Omega$で正定).さらに

\begin{displaymath}
\dot{V}(x) = 2x\dot{x} = -2x^4
\end{displaymath}

であるから準負定.したがって$V(x)$はリアプノフ関数である.

また,$\dot{V}(x)$は明らかに領域$\Omega$で負定関数であるから,リアプノフの安定定理(定理5.5)を満たし,このシステムの原点は漸近安定である.

 

例5.6 2次のシステム

\begin{displaymath}
\dot{x} = \left[ \begin{array}{cc}0 & 1  -2 & 0 \end{array}\right]x
\end{displaymath} (17.2)

を考える.明らかに原点は平衡点であるから,適当なリアプノフ関数を見つけ,原点の安定性を示す. いま

\begin{displaymath}
V(x) = x^T \left[ \begin{array}{cc}2 & 0  0 & 1 \end{array}\right] x
\end{displaymath}

とすると

\begin{displaymath}
V(x) = 2x_1^2 + x_2^2
\end{displaymath}

となり,原点を含む任意の領域$\Omega$で正定である.さらに

\begin{displaymath}
\dot{V}(x) = \left( \frac{\partial V}{\partial x}\right)^T \...
...ht] \left[ \begin{array}{c}x_2  -2x_1 \end{array}\right] = 0
\end{displaymath}

となり,$\dot{V}(x)$は準負定である.したがって$V(x)$はリアプノフ関数である.

しかしながら$\dot{V}(x)$は負定ではなく,原点の漸近安定性は得られない.このことは(17.2)式から $\ddot{x_1}+2x_1=0$が得られ,その解軌道が

\begin{displaymath}
x_1(t) = b \sin(\sqrt{2t}+\phi)
\end{displaymath}

の形をしていることからもわかる.


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endo 平成16年6月30日