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第2章 カオス

 

カオス(chaos)は、 日本語に訳すと``混沌''や``無秩序''という意味であるが、 最近になって科学、工学の分野でも 使われるようになった言葉である。 しかし、カオスという言葉は大変誤解を招きやすい。 また、カオスをきちんと定義すること自体でさえ 大変難しい問題であるほど、 カオス理論の研究は今だ未開拓である。

現在、決定論的力学系に見られる不規則でかつ複雑な軌道が、 カオスと総称されている。 [1]

カオス現象は、 自然物、人工物を問わず非線形システムにごくごく当たり前に生じるものであり、 風に吹かれて揺れる木の葉や地震の波、 海岸にうちよせる波の動きなど日常生活の中にも観察することができる。

またカオスは生体の活動に対しても重要な役割を占めている。 例えば心臓の鼓動などがそれにあたる。 心臓の鼓動は常に一定ではなく、 強くなったり、弱くなったりしている。 刻々と変動していき、予測のできない 自然の環境の変化に対して、一定の鼓動であるよりも 柔軟に対応できるようになっている。

カオスの定義は様々な研究者によってなされているが、 それらを総じて要約すると、 カオスとは、

「決定論的なシステムがつくり出す非周期振動」

という現象であるといえる。 ここでいう決定論システムとは、 破ることができない不変の法則からなる系という意味であり、 非周期振動というのは、 専ら偶然に支配される確率論的な運動という意味である。 すなわちカオスは、 不変の法則に支配される系にありながら 法則性のない予測不可能な非周期的振舞いということである。

例として鳥の形をしたアトラクタについて説明する。 [2]

以下に示す二つの差分方程式により、 図2.1のような図形が得られる。 初期点は tex2html_wrap_inline2026 とする。

  eqnarray25

この式の特徴は、 羽根状図形の近くに、初期値をどのように選んでも、 最終的にはこの図形に収束し、 得られる図形は同じものになる。 このように最初に出発する点に依存せず、 点列が同じ集合に吸い込まれて動く場合、 できる集合のことをアトラクタと呼んでいる。 この図2.1のアトラクタは まだその性質が良く分かっていないことと 形が奇妙なことからストレンジ・アトラクタとも呼ばれている。

   figure31
図 2.1: 鳥の羽根の形をしたアトラクタ

このように単純な二つの式から複雑な図形を描くことができる。 カオスを用いることにより単純な式で複雑な事柄を表すことができる。



Deguchi Toshinori
1996年11月14日 (木) 12時50分06秒 JST