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6.1 実験概要

第5章までに述べたことを確認するため、電子計算機上で次のような実験を行なった。

  1. 3層モデルの実験

    シナプス荷重を全結合させた3層モデルで、学習パターン内に同一パターンがない場合、 同一パターンが1サイクル内に1つある時、2つある時の想起能力を測定する。

  2. ランダム層モデルの実験

    ランダム層モデルで、学習パターン内に同一パターンがない場合、 同一パターンが1サイクル内に1つある時、2つある時の想起能力を測定する。

実験は全て1層あたりのニューロン数173、学習パターン15、サイクル周期3、サイクル数5とした。 また、学習パターンは乱数を用いて作成したランダムパターンとし、 学習パターンに乱数によってノイズを加えたものを初期値とする。 ノイズを加える範囲は15%から50%まで1%刻みで増加させ、各値で100通りの初期値について測定を行なった。

   figure366
図 6.1: ランダムパターン

ここで、パターンをランダムパターンとした理由を示す[1]。 ニューロン数を173とすると、ランダムパターンは図6.1に示すようなパターンである。 連想記憶モデルでは、第4章にて述べたようにパターンが互いに直交していることが大切である。 各成分が1か0かをほぼ等しい確率でとる場合、 パターンベクトル tex2html_wrap_inline1601 の大きさは、 ベクトルの成分の数を n とすれば、

  equation376

であり、他のベクトル tex2html_wrap_inline1607 との内積は

  equation382

となり、平均値が0で、標準偏差が tex2html_wrap_inline1613 程度にばらついている。 これより tex2html_wrap_inline1601tex2html_wrap_inline1607 の角度 tex2html_wrap_inline1259

  eqnarray391

程度で、 n が大きければ十分直交状態に近くなる。 このために実験ではランダムパターンを用いた。 数字やアルファベットなどの文字パターンはランダムパターンと違い、 成分の値が1をとる確率と0をとる確率が等しいとはいえず、直交状態とはいえない。 そのため、このような場合には直交学習を行なう[7]。

直交学習とは、

  eqnarray403

となるベクトル tex2html_wrap_inline1639 を求めて、シナプス荷重を

  equation411

とすることで、ランダムパターンによる直交化と同じ効果がでる。

上記の理論はデータに誤りのない場合のことで、ノイズが入った場合の誤り訂正能力について考えてみる。 学習パターンに確率 p でノイズが加わるとする。 パターン tex2html_wrap_inline1469 にノイズが加わったパターンを tex2html_wrap_inline1649 とすれば、式(4.8)は

  eqnarray423

となる。 N を加えることによって、確率 p で数値1が0に、 0が1に変わるため、 N は確率 p/2 で値2、 確率 p/2 で値0をとるベクトルである。 式(6.6)の右辺第2項が妨害項である。 r = k での妨害項は

  eqnarray446

であり、本来の値 n に対して -2pn/n = -2p の割合で影響が出る。

直交学習を行なった場合、 tex2html_wrap_inline1711 を理論的に求めるのは困難のため数値計算による結果のみを示す。 ランダムパターンと同様に r = k

  eqnarray459

となる。ここで E はそれぞれの tex2html_wrap_inline1731 の平均値、 tex2html_wrap_inline1733 は各要素が1をとる確率で本実験では0.264、 tex2html_wrap_inline1735 は0をとる確率で今回は0.736である。 本来の値1に対して -0.00118 p n の割合で影響が出る。 これに n = 173 を代入すれば直交学習の方が妨害項の割合が大きくなる。 また、 tex2html_wrap_inline1491 でランダムパターンでは妨害項の平均値が1であるのに対し、 文字パターンでは妨害項の平均は正の値を持っており、これも影響してくる。 本研究ではニューラルネットワークの特性の限界を調べるため、ランダムパターンを用いた。



Deguchi Toshinori
1996年10月29日 (火) 11時21分05秒 JST