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2.1 コンピュータ研究と脳研究

現在、高度情報処理社会と呼ばれる世の中で、 コンピュータと脳は、その双壁である。 生物が長い進化の歴史を経て作り上げてきた脳と、 その脳自身が短時間に作り上げたコンピュータとは、 共にすぐれた情報処理系でありながら、多くの相違点がある。 [2]

   

コンピュータ
基本素子 半導体素子 ニューロン
素子数 tex2html_wrap_inline1209tex2html_wrap_inline1211 tex2html_wrap_inline1213tex2html_wrap_inline1215
動作速度 tex2html_wrap_inline1217 s tex2html_wrap_inline1219 s
信号 電気パルス 活動電位
記憶容量 tex2html_wrap_inline1213 tex2html_wrap_inline1223tex2html_wrap_inline1225
故障率 tex2html_wrap_inline1227 tex2html_wrap_inline1229
得意な情報処理 高速で正確な数値計算 パターン認識、総合的判断
記憶方式 線形番地 連想内容番地
製作 設計図+ソフト 遺伝子+自己組織
性能向上 ソフト 学習、機能代償
睡眠 不要 不可欠
耐ノイズ性
耐故障性
再現性 完全 不完全
表 2.1: コンピュータと脳の比較

例えば、使い方1つ取ってみても、数々の違いがある。 コンピュータはプログラムを必要とし、使用の際にはディスプレイを見ながらキーボードをたたかなければならない。 しかし、脳を使うのにプログラムは不要であり、何かを見ながらでないと使えないということもない。 また、コンピュータは電源がないと使えないが、脳はどこでも好きな所で使うことができる。

さらに、コンピュータと脳には大きな相違点がある。 コンピュータの特徴の1つに、その動作の完全な再現性というものが挙げられる。 例えば、あるプログラムを全く修正せずに再び実行させても、結果は全て同じである。 しかし、脳の動作にはコンピュータのような完全な再現性がない。 そのため、この再現性のなさが、場合によっては生物の生死を分けることもある。 コンピュータと脳の比較を表 2.1 に示す。

コンピュータは、脳の持つ情報処理能力を人工的に実現しようとするものであるため、 当然のことながら、コンピュータ研究と脳研究は密接な関係がある。 初期のコンピュータが人工頭脳と呼ばれていたことも、コンピュータ研究と脳研究の関わりを示す一例であり、 1940〜1960年にかけては、コンピュータと脳を学際的に研究し始めた。



Deguchi Toshinori
1996年10月29日 (火) 11時21分05秒 JST