信号の到達時間を取り入れた同期ニューラルネットワークによって、時間的に広がる 信号を取り扱える様になると考えた。 そこで同期ニューラルネットワークの振舞いを確かめるために、 二つのニューロンによる もっとも単純な同期ニューラルネットワークに周期パルスの検出させてみる。 ここで周期パルスとはパルス間隔が一定の離散的な値を持つ信号である。
二つのニューロンは図5.1の様に結合する。
また到達時間を取り入れたことによる振舞いを確かめるため、式3.2の
重み を全て1とし関数fはステップ関数
とする。
外部からの入力はそれぞれに等しく与え、
ニューロン
の出力をこのネットワークの出力とする。
ここでニューロン の閾値を1、
の閾値を2、
ニューロン
からニューロン
へ
信号の到達時間を10とする。
入力をs(t)とすると個々のニューロンの出力は
と表される。
この同期ニューラルネットワークに外部から信号を入力すると、
閾値が1であるニューロン は信号が到達するたびに発火する。
ニューロン
からニューロン
への信号の到達時間は10であるので、
ニューロン
からニューロン
に到達する信号は時間が10だけ遅れた
入力に等しい。式5.2を書き換えると
となる。入力のパルスとパルスの間隔が10ならば右辺 の括弧内の
第1項と第2項が同時に1になるので、このニューロンは発火しパルスを出力する
ことがわかる。
このように図5.1の同期ニューラルネットワークは周期10の パルスが入力されたときのみ発火して、パルスを出力すると考えられるので、 周期10の入力を検出すると考えられる。
これを確かめるために、この同期ニューラルネットワークに 様々な周期の信号を入力した時の出力を実験によって確かめてみる。 実験した結果を図5.2〜5.9 に示す。入力した信号は周期4〜11まで8通りの信号である。
図5.2〜5.9の上の段が入力、下の段が出力である。 この結果より、入力の周期が5と10の時のみパルスが出力されていて、 周期がそれ以外の場合は何も出力されていないことが分かる。 入力の周期が10の場合パルスが出力されることは予想通りの結果であるが、 入力の周期が5の場合でもパルスが 出力されているのでこれについて考えてみる。 周期5の信号のパルス間隔はもちろん5であるが、 2周期離れたパルスの間隔は10である。 つまり周期5の信号にはパルス間隔が10となる組合せが存在するので、 式5.3で示した条件を満たしているのである。
また入力の周期が5の場合も10の場合も、パルスが出力されるまでに
時間がかかっているが、これは信号がニューロン からニューロン
に
到達するまで最低でも時間が10だけかかるためである。
以上の結果からニューロン が発火する条件は、入力の周波数が信号の到達時間を
一周期とした時の周波数の整数倍の場合(ここでは入力の周期が整数のみを
考えているので、入力の周期が信号の到達時間の約数の場合)と言える。
次にこの同期ニューラルネットワークに様々な周期のパルスを合成した信号を 入力したときに、それに含まれる周期10の信号を検出できるかを確かめてみる。 実験した結果を図5.10〜 5.12に示す。
この結果を見ると、図5.10の様に入力に周期10の成分が 含まれていない場合でもパルスが出力されている時がある。 これは周期7と周期12の信号を合成した際に パルス間隔が10となる組合せが存在する様になったためで、ここでは 周期7の信号によるt=14のパルスと周期12の信号によるt=24のパルスの間隔が それに当たる。しかし、このようなパルスは一回限りのもので、何回も続けて 発火するものではないと言える。 入力に周期10の信号が含まれている場合は、図5.11や 図5.12の様に、他の周期の信号に惑わされずパルスが連続的に 出力される。
このようにこの二つのニューロンからなる同期ニューラルネットワークは 周期10の周期パルスを検出することが出来るが、誤動作も多いことが分かる。