カオス(chaos)とは、日本語に訳すと「無秩序」「混沌」といった 意味である。近年、この言葉は科学の世界でも用いられるようになってきた。
カオスの概念が歴史の表舞台に登場してきたのは19世紀末から20世紀初頭 にかけてのポアンカレ(Poincare)の研究からで、 それ以来、複雑系科学を語る上でカオスの概念は なくてはならないものとなっている。 しかし、カオスというものについて具体的な定義をすることは 非常に難しい問題で、カオス理論は今だに発展途上の分野であるといえる [3]。
現在では、力学系におけるおけるカオスとは一般的に、 「決定論的非周期振動現象」という定義がなされている。 すなわち、決定論に従う力学系の解が 初期値に鋭敏に依存する予測不可能な振舞いを示し、 そのアトラクタとしての次元が、非整数のフラクタル次元となる現象である。
カオスは日常生活にごく当たり前に存在する現象であり、 例えば風に流れる雲の動き、海岸に打ち寄せる波の動きなどの 自然現象を始め、ラグビーボールが何回かのバウンドの後に 突然方向を変えるといった人工物の振舞いにも、 カオス的な挙動が見られる例がいくつもある。 これらはある式によって表現できる力学運動であるが、 外界からの専ら偶然に支配される確率論的な雑音によって その振舞いに大きな差異がでてくるため、動きを予想することは不可能となる。 つまり、力学系という不変の法則に従う系にありながら、 偶然に支配される予測不可能な非周期的運動を行なうことになる。
具体的なカオスの例として式(3.1)を示す。
式3.1の入力 と出力
の関係を表した物が
図 3.1 であり、これはロジスティック写像と
呼ばれる1次元カオスである。
図 3.2 は単にこの二次方程式が再現されたものに過ぎない。
すなわち、式(3.1)のような極めて簡単な力学系の解が
図3.2に示すような混沌とした振舞いを示すわけである。
この写像は N が増えることによって初期値
の下位の桁の情報が順次上位の桁に繰り上がってくる。
そのため、初期値に僅かな違いがあると N が大きくなるにつれて
その誤差が徐々に上位の桁に現れ、
は全く違う値となる。
これがカオス現象の特徴である初期値に対する鋭敏な依存性、
すなわち軌道不安定性である。
さらに2次元カオスの例を式(3.2)に示す。
式(3.2)を初期点を として
2次元座標上に表したものが図 3.3である。
このようにたった2つの式から複雑な図形を描くことができ、
カオスを用いることによって単純な式で複雑な事柄を表すことができる。
この式は、羽根状図形の近くに初期値をどのように選んでも
最終的にはこの図形に収束し、
得られる図形は同じものになるという特徴を持つ。
このように最初に出発する点に依存せず、
点列が同じ集合に吸い込まれて動く場合、
できる集合のことをアトラクタと呼んでいる
[2]。