ネットワークのカオスの状態を制御する方法として、 3.3 で示した 減衰定数のパラメータ を変化させる方法と、 シナプス前抑制による制御法がある。 を変化させる方法は、 時空間的に過去のニューロンの出力を扱うことによって、 間接的に制御を行なうものであるのに対し、 シナプス前抑制による制御法は、 直接的にニューロンの結合部を変化させることにより 抑制を行なうものである。 本研究では、 このシナプス前抑制による制御を取り入れている。
シナプスとは、 2.1 でも述べたように、 神経細胞と神経細胞の結合部分のことをいい、一般に、
とモデル化される。 X'はシナプス後細胞へ送られる信号、 wはシナプス結合荷重、 Xはシナプス前細胞の信号である。
そして、 シナプス前抑制とは、 興奮性シナプスのシナプス前終末を脱分極させ、 興奮性シナプスから放出される伝達物質の量を抑えることにより 抑制をかけるものである。[5](図3.2)
そこで、 シナプス前抑制は伝達物質抑えることから、 結合荷重を減少させるものと考えることができる。 この考えをもとにシナプス前抑制を次式のようにモデル化した。
ここで、 zはシナプス前抑制信号、 は式(3.8)、 図3.3 のようなシナプス前抑制関数である。
は、 抑制信号zが小さいときは1.0となり、 zが制御用しきい値 より大きくなると となる。 つまり、 zがしきい値 より大きくなると抑制が働き、 式(3.7)からシナプス後細胞へ送られる信号は小さくなる。
また、 シナプス前抑制は、 本来興奮性結合に対してのみ抑制をかけるものであるが、 ここでは、 興奮性・抑制性のシナプス両方とも抑制の対象とした。
シナプス前抑制を考慮すると、式(3.3)は
となる。
パラメータを適切に設定し、 自己想起型の相関学習によりパターンを学習させたニューラルネットワークに、 シナプス前抑制をかければ、ニューロン間の相互の力が弱くなり、 相対的に不応性が強くなり、動的想起となる。 また、 シナプス前抑制を解除すれば、ニューロン感の相互の力が強くなり、 従来の自己想起状態となる。