実際の神経細胞は容易にカオスを生成し,その応答は非周期的であるにもかかわらず, 従来のニューロンのモデルの応答は,ほとんど全て周期的である。 これは,従来考慮していなかった神経細胞の何らかの特徴が, カオスの生成に寄与していることを示している。
従来のニューロンのモデルの出力は, 全か無かの法則(階段関数)で与えられていたが, 実際の神経細胞において空間固定の条件で注意深い実験を行うと, 神経膜の活動電位生成過程は厳密には全か無かの法則には従わず, 第 3.3 節で述べたシグモイド関数のように, 急峻ではあるが連続的に応答の大きさが変化する, 「ファジィ」な活動電位特性を有することが分かる。 そして,ニューロンのカオスを生成する軌道不安定性は, この連続的なしきいセパラトリクスに起因する。 すなわち,ニューロンのカオスは全か無かの法則の不成立ゆえに成立するのである。 [6]
そこで,式 (4.1) の出力関数 f(u) を,
出力が連続しているシグモイド関数に「温度」 を考慮した,
式 (4.2) に置き換える。
これにより,これまでのニューロンモデルで成立していた,
「全か無かの法則」を打ち崩し,ニューロンのカオスが成立する。
これが,カオスニューロンである。
この をパラメータとしてとると,
図 4.1 のように,
しきい値を境にした変化の度合を変更することができる。
また,この図より
とすれば,階段関数に近付くことがわかる。
今後,出力関数 f(u) はすべて,式 (4.2) を用いる。
また,本研究では,
不応性とシナプス結合が時間と共に指数関数的に減衰するものとして,
式 (4.1) の ,
を次のようにおく。
よって,式 (4.1) は次式のように書き換えられる。