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2つのカオスアトラクタの学習

前節の実験でニューラルネットワークにカオスアトラクタを学習させることはほぼ可能であるという結果に達した。 本節では、 一つのネットワークに二つのカオスアトラクタを学習させることが可能であるかを検討する。 学習させるアトラクタはエノン写像ともう一つは次式で表される折り曲げ模様の写像である。

  equation432

この式のダイナミクスを図5.9に示す。 ただし、 左図は a=0.4、b=-1.2、右図は a=-0.1、b=-1.7、とした時の写像である。 本実験では、 左図のダイナミクスを学習させることにする。

   figure436
図 5.9: 折り曲げ模様の写像

またこの写像は単独では、 全節と同様な方法でエノン写像と同様な程度の精度で学習ができることが確認された。

学習の基本的なアルゴリズムは全節の実験と同様だが、 入力層のニューロンの数を6個、 中間層のニューロンの数を50個として、 300回ずつ交互に学習させていくという方法で実験を行なう。 ただし、 いきなり教師信号が別のアトラクタのものに変わると学習がしにくいと予測されるので、 学習を行なう前に重みとしきい値を付け替えずにネットワークを5回ほどループさせてから学習を行なう。 そして実験は入力層のニューロン6個に与える教師信号を次のように与え学習を行ない、 その結果について考察する。

  1. ニューロン2つにアトラクタの望ましい出力を教師信号として与える。
  2. 1. の他にニューロン2つに今どちらのカオスアトラクタを学習しているのかを (0,1)、(1,0) の教師信号として与える。
  3. 1. の他にニューロン2つにカオスアトラクタの式の定数2つを教師信号として与える。
  4. 1. 2. 3. をすべて教師信号として与える。

以上の条件において実験 1〜4 を行なうが同条件で比較するため tex2html_wrap_inline1389tex2html_wrap_inline1391n=10000000 で実験を行なう。

実験の結果を図5.10〜図5.13に示す。 ただし実際に初期値を与え点をプロットして描く図は省略する。 図において Henon はエノン写像、 orimage は折り曲げ模様の写像の実験結果を表している。

   figure447
図 5.10: 実験1の結果

   figure454
図 5.11: 実験2の結果

   figure461
図 5.12: 実験3の結果

   figure468
図 5.13: 実験4の結果

5.10を見ると、グラフの傾きは違うもののエノン写像、折り曲げ模様の写像共に始めの点から誤差が出はじめ、 直線的なグラフとなっている。 立ち上がりが早過ぎることから、 全く学習が行なわれていないことが分かる。 これはやはり、 教師信号に式のダイナミクスしか与えてなかったため、 ネットワークはどちらの写像を学習していることが分からず、 どっちともつかない結果を出力したと考えられる。

5.11は、 今どちらの学習をしているかを教師信号に与えた時の ER のグラフである。 こちらは、 立ち上がりがあるため、 多少の学習はされていることが分かる。 特に、 折り曲げ模様の写像の方は、 単独に学習させた時よりも少し悪い程度に学習がされている。 エノン写像の方も、 立ち上がりはやや早いものの式のダイナミクスはある程度学習されている。 この方法は、 後は適当なパラメータを見つけることができればそこそこの精度で学習ができるものと考察される。

5.12は、 写像の式の定数を教師信号に与えた時の ER のグラフである。 このグラフを見ると、 立ち上がりはやや早いものの、 ER が増えていく傾きが小さい区間がどちらも長く、 ダイナミクスはほぼ均等に学習できていることが分かる。 この結果は、 今までの結果に比べてかなり期待の持てる結果になった。 あとは立ち上がりをもう少し遅くすることができれば、 単独に学習させたものと同程度の学習ができるのではないかと考えられる。

5.13は、 実験1、2、3 のすべての教師信号を与えた時の ER のグラフである。 この実験の結果が一番誤差が少なく学習することが可能であると予想していたが、 実験結果は期待を裏切る結果となった。 エノン写像の方は立ち上がりが早くその後の傾きも大きいが、 式のダイナミクスはある程度学習されていた。 しかし、 折り曲げ模様の方は傾きが小さいにも関わらず、 学習が教師信号に近いところで収束してしまい、 ダイナミクスの学習はされていなかった。 この実験では教師信号を入力層全てのニューロンに与えたため、 自由度が少なく学習が拘束されてしまったためにこのような結果になったと考察される。

本実験では、 一つのニューラルネットワークに二つのカオスアトラクタを学習させることは どの方法を採っても単独に学習させた時の学習には及ばなかった。 しかし、 ダイナミクスをある程度学習できることは確認できたため、 今後の研究によって単独な学習と同程度の精度で学習ができるようになることを期待したい。



Deguchi Toshinori
1996年11月26日 (火) 09時21分43秒 JST