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: 最小実現 : sysconh16 : 伝達関数行列(後期第1回)

実現問題

前節においてシステムの状態方程式表現が与えられたとき,その伝達関数(行列)表現は一意に与えられることを示した.本節ではその逆の問題,すなわち伝達関数(行列)表現が与えられた場合に,その状態方程式表現を求める問題を考える. この問題は,状態方程式表現が求められれば,積分器を用いた電気系などにより,ハードウェア回路として実現できるという意味で,実現問題と呼ばれる.

行列$G(s)$の各要素が$s$の有理関数であるとき(すなわち,分母および分子が$s$の多項式であるような分数の形をしているとき),$G(s)$を有理行列といい,さらに各要素が

\begin{displaymath}
g_{ij}(s) = \frac{p_{ij}(s)}{q_{ij}(s)}
=\frac{\gamma_{k-1}...
...0}{s^k + \alpha_{k-1}s^{k-1} + \cdots
+ \alpha_1s + \alpha_0}
\end{displaymath} (12.1)

のように(分母の次数)>(分子の次数)であるとき有理行列$G(s)$は,厳密にプロパーであるという( $\lim_{s\to \infty}G(s) = 0$と定義しても良い).

 

定理4.3 有理行列が実現可能であるための必要十分条件は,それが厳密にプロパーなことである.

 

(証明)まず必要性,すなわち有理行列が実現可能ならば厳密にプロパーであることを証明する.

$G(s)$は実現可能であるから,$G(s)$の任意の実現をシステム$(A,B,C)$とし,その次元を$n$とする.前節の定理より明らかに

\begin{displaymath}
G(s) = C(sI_n - A)^{-1}B = \frac{C {\rm adj}(sI_n-A)B}{\det(sI_n-A)}
\end{displaymath}

である. ${\rm adj}(sI_n-A)$$sI_n-A$の余因子行列であるから,明らかに$s$に関して$(n-1)$次以下になる.また$\det(sI_n-A)$$s$に関して$n$次になる.以上により$G(s)$は厳密にプロパーである.

次に十分性を示す.ここで前節で示したように,$G(s)$はシステムを正準分解した可制御可観測なサブシステムを用いて

\begin{displaymath}
G(s) = H^b (sI-F^{bb})^{-1}G^b
\end{displaymath}

で表されることに注意する.

$G(s)$が厳密にプロパーであれば,$G(s)$の一つの実現が存在することを示せばよい.$G(s)$の第$(i,j)$要素$g_{ij}(s)$が(12.1)式で与えられるとすると,教科書図4.1より$g_{ij}(s)$は入力$u_j$,出力$y_{ij}$の1入力1出力システムの伝達関数と考えられる.したがって,$g_{ij}(s)$は定理3.4と教科書(3.49)式により

\begin{eqnarray*}
A_{ij} &=& \left[ \begin{array}{cccccc}
0 & 1 & 0 & \cdots & \...
...a_1 & \cdots & \cdots & \cdots & \gamma_{k-1} \end{array}\right]
\end{eqnarray*}

という,可制御正準形をした一つの実現を持つ.この実現は教科書図4.2で表される.したがって

\begin{eqnarray*}
\tilde{A} &=& \left[\begin{array}{cccccccc}
A_{11} & & & & & &...
... & \\
& & & & & & &c_{r1} & \cdots & c_{rm}
\end{array}\right]
\end{eqnarray*}

とおけば,システム $(\tilde{A},\tilde{B},\tilde{C})$は,$G(s)$の一つの実現である.このことはシステム $(\tilde{A},\tilde{B},\tilde{C})$の伝達関数行列 $\tilde{G}(s)=\tilde{C}(sI-\tilde{A})^{-1}\tilde{B}$の第$(i,j)$要素 $\tilde{g}_{ij}(s)$

\begin{displaymath}
\tilde{g}_{ij}(s)=c_{ij}(sI-A_{ij})^{-1}b_{ij}=g_{ij}(s)
\end{displaymath}

となることからも確かめられる.



endo 平成16年6月30日