本節では主として線形システムの内部安定性を論じる.
線形システム
上記の定義より解るように,システムの漸近安定性はのみによって定まる.
例5.1 システム
上の例から内部安定性は,すなわち
に関連しており,行列
の固有値が漸近安定性と結びつきそうであると考えられる.これに対し次の定理が成り立つ.
定理5.1 システム(5.1)が漸近安定であるための必要十分条件は,の特性方程式
の根(すなわち
の固有値)の実部がすべて負であることである.
証明は線形代数の知識(固有値と固有空間に関する理論)を必要とするため省略する
例5.2 システム
入出力安定性について 線形システム(5.1)の初期状態が零であるときに,任意の有界な入力(すなわち,任意の時刻
に対して
となる定数
が存在する入力)に対する出力が有界であれば,このシステムは,有界入力有界出力安定であるという.このとき,システム(5.1)が有界入力有界出力安定であるための必要十分条件は,その伝達関数行列
(すなわち,
の各要素の既約形を取った行列)の各要素
の極の実部がすべて負となることである.この条件は,1入力1出力システムの場合には,伝達関数のすべての極の実部が負であることという古典制御理論における安定性の必要十分条件に帰着される.また,システム(5.1)が可制御可観測である場合には,
の漸近安定性の条件と,有界入力有界出力安定性の条件は一致する.このことから
の固有値を,システム(5.1)の極と呼ぶ.なおシステム(5.1)が可制御可観測でない場合には,次の例からも判るように,その漸近安定性と有界入力有界出力安定性は必ずしも一致しない.
例5.3 システム
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有界入力有界出力安定性は,ここでは古典制御理論での安定性との関係を明らかにするために取り上げた.ただ,たとえ入出力安定性の意味で安定であったとしても内部的に不安定な部分が存在することはシステム設計上好ましくない. したがって以下では内部安定性,特に漸近安定性についておもに議論する.