非線形自律システム
システム(17.1)の原点の安定性を,次のように定義する(図5.4参照).
たとえば,図5.5に示すように,曲面上を下向きの重力を受けた球がころがるときは安定(摩擦なしのため底点に近いところで振動し続ける),
は漸近安定(粘性摩擦のため時間無限大では底点に静止),
の平衡点は安定ではない(初期点が多少でもずれると移動してしまう).
以下ではこのような意味での安定性を判別するための方法を示す.
そのため,まずの正定関数という概念を説明する.
原点を含むある領域で定義されたあるスカラ関数
が
で,かつ
なる任意の
に対して
(または
)を満たすとき,
は
で正定(または準正定)であるという.また,
が正定(または準正定)であるとき,
は負定(または準負定)であるという.
いま,あるスカラ関数が,原点を含むある領域
で正定で,かつシステム(17.1)の解
の軌道に沿っての時間微分
定理5.5(リアプノフの安定定理) システム(17.1)の原点が安定であるための1つの十分条件は
1. リアプノフ関数が存在する
を満たすことである.言い換えれば,システム(17.1)に対するリアプノフ関数を見つけることができれば,そのシステムの原点は安定である.また,原点が漸近安定であるための一つの十分条件は,条件1.および
2. 領域で
が負定関数である.
を満たすことである.なお条件2.は
2'. 任意のに対するシステム(17.1)の解
が
において恒等的には
とならない.
で置き換えることができる.したがってシステム(17.1)に対するリアプノフ関数が存在し,かつ,条件2または2'を満たせば原点は漸近安定である.
定理の証明は省略するが,直感的な説明を与えることにする.リアプノフ関数をの場合について概念的に図示すると,図5.6のようにおわん形をしていると考えられる.
そして条件2.は,システムの
平面上の軌道
に対応するおわん上の軌道
が,時間の経過と共に必ず下に向かって降りていくことを意味する.
おわんの最低点は原点のみであるから,条件2.が満たされるとき,適当な原点の近傍が存在して,その中から出発した軌道は,時間の経過と共に必ず原点に収束する.
すなわち,原点は漸近安定である.条件2'.は,図5.7に示すように,原点以外でおわん上の軌道が瞬間的に,またはある有限時間の間,水平方向に動くことがあっても,必ず再び下方向に降りていくことを意味する.
したがって条件2'.が満たされるときも,原点は漸近安定であることになる.
なお,リアプノフ関数は一意とは限らず,1つの安定なシステムに対しても一般に多数存在する.またリアプノフ関数が見つからないからといってシステムが不安定というわけではない.
例5.5 1次元のシステム
また,は明らかに領域
で負定関数であるから,リアプノフの安定定理(定理5.5)を満たし,このシステムの原点は漸近安定である.
例5.6 2次のシステム
しかしながらは負定ではなく,原点の漸近安定性は得られない.このことは(17.2)式から
が得られ,その解軌道が